地獄通信

数年前に無事に脱獄した友に捧ぐ。 自殺者を減らす運動をしているNGOの会長のAさん。 己の使命感と正義に絶対の自信を持ち、 その眼は輝いている。 Aさんの努力によって自殺者数が減った国の政治家であるBさん。 相変わらず悪政を敷いているのに、 数値の御…

赤の他人が死んでから五年経った年

今年は、赤の他人が死んでから五年経った年。 昨年は、他人が死んでから四年経った年。 一昨年は、友人が死んでから三年経った年。 三年前は、親友が死んでから二年経った年。 四年前は、恋人が死んでから一年経った年。 五年前は、自分が死んだ年。 死んだ…

虐待死した子供達の墓前にて

守ってあげられなくて御免ね。 君達を守るために法が家の中に入ってくると、 廻り廻ってもっと多くの人が死ぬと言う人がいるんだ。 君達は私達一人一人の自由を守るために死んでいったんだ。 私の近所の人は皆、民権運動家の御墓参りに行ってしまった。 だか…

なかよし

永遠に沈み続ける夕日は 永遠に沈む事が無い 世界は滅び続けるから 滅びは永遠だ 君の愛らしい笑顔が 明日には白骨の哄笑になると知っているから ずっと仲良しでいようね

激痛地獄

右手が内側から焼き鏝を当てられる。両足は巻き添えから逃れようとしてか、即座に直立して右手との平均距離を伸ばす事に成功。口は頼まれもしないのに右手の代弁。「犠・や・や・や・あ。」脳は偉そうに高所から託宣。「昨日の君に死ぬ勇気が無かったから、…

毒草

十年前、毒の花に瘴気を浴びせられた。 肌は爛れ、胃は荒れ、疲れやすくなった。 知恵は消え、精神は不安定になった。 私は人間ではなくなった。 十年後、毒の花に瘴気を浴びせた。 体からも、心からも、毒は消えた。 私は人間に戻ってしまった。 しかし人間…

ある病気

罹患してみるまでは、どう苦しいのかは判らない。判らないから、患者を傷つけてしまう。罹患してみると、傷つけてくる相手が憎くなる。かつて自分がその一員だった事も忘れて。やがて全てを思い出し、苦痛を苦痛のまま受け入れる。この境地こそ、苦痛の対価…