災害時の値上げで救われる弱者もいる

 以前、長年世間知らずだと見做して馬鹿にしていた某図書館の長が、実は自分よりも社会的弱者の事情を知っていた可能性が高いという事に気付いたので、大いに恥じ入った、という話を書いた(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20100522/1274515658)。
 本日もそれに似た話を書く。今回登場して頂くのは、某経済学者である。「彼」という代名詞を使いたいので、男性であるという事だけ明かしておく。舞台は講演なり授業なりを想定して頂きたい。
 彼は、「ラッシュ時の混雑を緩和するには、ラッシュ時に運賃の値上げをして、他の時間帯に値下げをすれば良い。」という意見の持ち主であった。そして私を含む聴講者に対し、こんな簡単な理屈が鉄道会社の重役には受け入れられないと、愚痴を言っていた。
 その時の私は、「鉄道会社だって客商売なのだから、客に嫌われたくはないだろう。日本の鉄道利用者の多くが、貴君の様な合理性を体得していない事に早く気付けよ。この学者馬鹿!」と思ってしまっていた。
 やがて月日は流れ、私は数日前に、新聞社に「頼むから疑似科学を称揚しないでくれ!」と無駄な御百度参りをするよりも、地道に疑似科学の愚かしさを告発し続ける方が、却って疑似科学退治の早道になる、という見解に基いて日記を書いた(http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20110307/1299468089)。
 そしてその直後に、彼もまた鉄道利用者の精神構造から改造するという地道な戦略の一環として、私達にあんな話を聞かせたのではないか、と気付いたのである。
 本日は私も彼に倣い、今出来る事を地道にしたいと思う。
 それは、「災害時の買い占め競争を緩和するには、値上げをしてもらうのが一番だ。」と唱道する事である。
 災害時にある物品の値段が上がらなければ、それをさほど必要としていない人も念のため大量に購入してしまうのは、当たり前の事である。これが買い占め競争の激化に繋がり、運悪く怪我をした等の諸般の事情によって店に行くのが遅れた人を一層苦しめている。
 ある物品の供給が急速に減って需要が急速に高まる際に、法律の範囲内の値上げをする業者を叩いておきながら、偶然店の付近にいたために労せずしてその物品を過剰に入手する立場を得る人の存在を野放しにしておくというのは、不思議な話である。
 今検索をしたところ、同じ様な主張が大量に見つかった。今まで当ブログではそうした場合には記事をお蔵入りにしていたのだが、公益のため、敢えて百番煎じをする事にした。
 とはいえここで話を終えるつもりはない。これだけでは何十年か後に日本人の多数派の意識が変わるまで状況はほとんど変わらないだろうし、やはり私はなるべく独自性の高い文章を発表したい。そこで次の提案を付け加えたい。
 「業者は、値上げを客に恨まれるのが怖いならば、堂々と買い占め対策である事を説明せよ。それでも怖ければ、余分に儲かった金額の一部(または全て)を被災地復興の義捐金にすると約束すれば良い。」
 これならば、はるか未来の理想の日本を待たずしても、ある程度は即効性のある提言になるだろう。
 なるべく多くの方に一考して頂けると嬉しい。
「原思為之宰 與之粟九百 辭 子曰 毋 以與爾鄰里鄉黨乎」(『論語』雍也篇より)