『大長編ドラえもん のび太と鉄人兵団』にはミクロスというロボットが登場する。現代人であるスネ夫の従兄のスネ吉が作った筈なのだが、二足歩行どころか飛行まで可能であり、その性能はアシモを軽く凌いでいる。
これにつき、ネット上ではスネ吉を天才として称える説ばかりが流布しているが、私は異論を持っている。
もしもミクロスが作品世界において画期的な存在であったならば、スネ吉は従弟に玩具として与えたりはしないだろう。天才的工学者として全世界に注目される事を望む筈だ。万が一本人がその種の名誉に興味が無かった場合でも、ミクロスを目撃した通行人が放ってはおかないであろう。
ここで思い出して欲しいのは、街を歩き言語を使いこなすドラえもんもまた、秘密道具を使わなくても十分にアシモを超えた存在であるのに、初対面の人物や通行人から日常的な存在と見做されている事である。
また鉄人兵団が、「改良型やまびこ山」によって行われた自分達の兵器と同等の威力を持つ反撃を、特に驚きもせずに地球人の反撃と誤解してしまったのは、事前の観測によって把握していた地球の兵器の威力が自分達の兵器の威力とほぼ同等だったからであろう。
こうした事を鑑みるに、ドラえもんの作中世界は、我々の生きている世界や時代に酷似しているが、工学が遥かに発達した世界と考えるのが、順当であろう。
そして例えば「自信ぐらつ機」の話で菓子屋が当初主張していたロボットに菓子の味は理解出来ないという見解は、百年以上未来のテクノロジーすら頑なに否定した結果のものというよりは、作中世界の当時の二足歩行型ロボットに対する順当な理解だったのではあるまいか?
この仮説を採用すると、ドラえもんの秘密道具の性能が、我々が予測する実際の西暦22世紀の技術を遥かに上回っている事についても納得がいく。あれは我々の世界の延長線上にある22世紀なのではなく、二足歩行型ロボットが漫画家のアシスタントや漫画雑誌の編集者程度の知的作業をこなす事が異常でなくなり(「あやうし!ライオン仮面」より)、ミクロスが小学生の玩具に過ぎないような、そんな別の20世紀の延長線上にある22世紀なのだ。
大長編ドラえもん (Vol.7) のび太と鉄人兵団 (てんとう虫コミックス)
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