『サクラ大戦 漫画版』第一部の紹介

 『サクラ大戦 漫画版』は現在も連載が続いているが、ゲーム第一作の前半を描いた部分が第一部として纏められているので、本日はこれを紹介したい。
予告編

 『サクラ大戦 漫画版 COLLECTION』は、サクラ大戦の歴史や設定を漫画版を中心に紹介した書籍なのであるが、195〜203ページに掲載された漫画版の予告編が非常に秀逸なので、推奨しておきたい。画風の安定性といい、短いページ数と予告という制約の中でのギャグの出し方といい、多くの読者に安心感と期待感とを持たせたであろう内容となっている。
第1巻
 まずは士官学校を卒業する前の大神一郎と加山雄一の物語が描かれている。彼等は極めて優秀であり、教官の恨みを買っている。
 この部分が67ページの米田一基の発言でも活かされている。左遷されたのだと大神に思いこませた後で「士官学校で教官の恨みでも買ったか?」と米田は付け加えているのである。こういう流れがあったからこそ、一度は大神は自分の左遷を完全に信じてしまうのである。
 この第1巻では、大神が卒業後に帝国歌劇団に配属され雑用係になる所まではゲームと話が同じだが、黒之巣会の活動が本格化する前に降魔が出現する。一度は歌劇団に馴染もうとした大神であったが、降魔と戦うために辞任を決意する。
 なお28〜29ページでは大神と加山が配属願い先を語り合う場面があるのだが、ここで加山は築地の海軍大学校を希望している。史実における海軍大学校は、兵学校を卒業した直後に行ける学校ではなかったのだが、フィクションとして変更を加えたのか、それとも将来海軍大学校に行けるコースを漠然と加山が志望していたのかは、謎である。
第2巻
 ゲームでは、六破星降魔陣用の楔は黒之巣死天王が上野に勢揃いした状況で強奪されていたが、漫画版では葵叉丹が夜に密かに盗み出している。
 それでいて翌朝には再び上野に叉丹率いる黒之巣会の脇侍部隊が出現する。彼等の再出撃の目的は表慶館の財宝であったが、おそらくは前夜の寛永寺の宝物殿の破壊の時刻や目的を擬装する狙いもあったと思われる。
 この上野の戦いで帝国歌劇団帝国華撃団でもある事を大神が知るのはゲームと同じ。その後、李紅蘭の登場、『愛ゆえに』の舞台崩壊へと続く。
 123ページでは、この世界の「満鉄疑獄」が太正六年に旧幕臣の子孫が起こしたものである事が明かされ、この時に横流しされた物資により魔操機兵が作られたという設定が匂わされている。
第3巻
 芝公園の戦いと築地での第一戦が描かれた巻である。大神が負傷して終わる。
 8ページでは舞台が大崩壊したのは真宮寺さくらのみならず裏方の責任でもあるという正論が登場し、中嶋親方が腹を斬るとまで言い出したという話も聞かれる。これは劇場版の『紅蜥蜴』の影響を受けていると思われる。
第4巻
 築地での第二戦で蒼き刹那を討ち取るまでにページの大半を使ってしまい、残りのページで花組の日常を軽く描いている。
 そろそろスピードの遅さが心配になってくる頃である。
第5巻
 大神とイリス=シャトーブリアン(以下、「アイリス」)とのデートが行われてから白銀の羅刹との戦いが始まるまでの話が描かれている。
 ここで興味深いのは、119ページで羅刹が「六破星降魔陣の第四の封印はこの羅刹が解き放った!」と宣言している事である。第3巻の107・143ページを読む限り、築地の封印はゲームと同じく第二の封印であった。よって刹那との第一戦からこの時点までに第三の封印が密かに解除された事が判る。後の巻まで読み進めると、これがゲームでは第五の封印であった九段下の封印であったと判明する。
 ゲームでは籠城と召喚術を組み合わせて各個撃破を狙ってきた羅刹だが、漫画では叉丹から授かった霊力吸収装置を有効に機能させるため、敢えて包囲されるという戦術を採用してきた。これはかなり独自色のある展開であった。
第6巻
 羅刹との戦いが終わり、深川屋敷の探索が始まるまでの話。
 羅刹戦は敗北必至の状況からアイリスが救助に来て大逆転となった。この展開は『サクラ大戦TV』におけるアイリスの初陣の影響を受けていると思われる。
 123〜126ページでは、『桜華絢爛』で描かれた神崎すみれの入隊時の様子が再現されている。
第7巻
 深川での戦いが終わる。
 屋敷内での話の内容は、桐島カンナが蛇に噛まれずに済んだり、女の子の幽霊が出てきたりと、『熱き血潮に』の影響が強い。
 カンナ機とすみれ機がダブルキックで魔操機兵「孔雀」に大打撃を与えるという流れは、『新世紀エヴァンゲリオン』の対イスラフェル戦へのオマージュであると思われる。
 ゲームではさくら機に仕掛けをした上で余力を持って退散した紅のミロクだが、漫画では敗北した上に孔雀まで破壊される。この影響により、次の巻の内容もゲームとは若干異なる。
第8巻
 日比谷で最後の封印が解かれ、六破星降魔陣が完成してしまう。この際に黒之巣会はゲーム版と同じく陽動作戦も行うのだが、漫画版ではまだ華撃団の本拠地がばれていないので、戦場となるのは芝公園である。この時期に芝公園で再び戦いが起きるというのは、『熱き血潮に』の影響であると思われる。
 廃墟となった都心には、「孔雀・改」が出現する。これをミロクは「完璧なる孔雀」と呼ぶ。「孔雀・改」は戦いの最中に脚が生え、ミロクは「この脚はただの飾りではないぞえ!!」と宣言する。完全に、「パーフェクト・ジオング」へのオマージュである。
第9巻
 黒之巣会は華撃団の活躍と叉丹の裏切りで壊滅し、この巻で第一部は完結する。
 ゲームではこの時期、数千体の脇侍軍団が地上に出現するという絶望的な状況下で、辛うじて発見した黒之巣会の本拠地に乗り込んで大して強くない首領の天海を倒して事件解決という流れであった。
 一方漫画版では、敵の本拠地を発見して脇侍軍団を稼働前に破壊してしまうという圧倒的に優勢な状況下で、絶望的に強い天海と戦うという流れとなった。
 「推奨年齢 全年齢」と銘打ったゲームの中盤で絶望的に強い敵を出す訳にはいかなかったから、ゲームでは戦況の方を絶望的にしたのであろう。だが漫画版ではやはり首領との最終決戦が盛り上がった方が面白いので、黒之巣会の強さのあり方を「量」から「質」へと反転させたものと思われる。
第二部
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