サクラ大戦スーパー歌謡ショウ『新編八犬伝』 & 配役の私案

 サクラ大戦スーパー歌謡ショウ『新編八犬伝』のDVDを視聴した。これは歌謡ショウからスーパー歌謡ショウへと進化した最初の作品である。
 第一部は例によって花組による劇中劇の準備段階の話である。時期の設定は神崎すみれが引退した直後となっており、七人体制に慣れないで混乱した状態の花組が描かれていた。
 ここで花組と八犬士の境遇が似ているという台詞が聞かれた。私も同感であったので、これについては本記事後半で詳しく分析する予定である。
 第一部の終盤ではイリス=シャトーブリアン(以下、「アイリス」)が空を飛ぶサービスが何度も行われていた。そして台詞を通じて、こういった大仕掛けこそが「スーパー」の目玉である事も強調されていた。観客席から見上げるのも楽しそうであったが、DVDで空中のアイリスと同じ高さのカメラから観賞するのも楽しかった。かなり高い場所で高速で移動させられているのに、本人にまるで脅えた様子が見られない点に、非常に感心させられた。
 第二部・第三部は劇中劇の八犬伝である。
 話の筋書きは大幅に変えられており、特に序盤ではあの山下定包が何と里見義実の家老を務めているという超設定に驚かされた。しかもこの山下定包、玉梓の怨霊に取りつかれると謀反を起こし、里見義実も伏姫も八房も殺してしまう。その後は直接の支配地だけでも浅草のすぐ東の辺りまで順調に伸ばし、その支配地から奪った重税を賄賂にして「関東御支配役」に就任し、隅田川の祭の認可も彼が出すという有様となった。凄いぞ!こんなに凄い山下定包は見た事が無い!
 大神一郎演じる金碗孝徳は伏姫が死ぬとさっさと自害してしまう。これも超展開である。
 第二部のラスボスは千葉助演じる偽赤岩一角である。原作の『南総里見八犬伝』では瞬殺される妖怪であったが、本作では犬士が五人掛かりで漸く退治する強敵となっていた。この改変は素晴らしいと思った。勧善懲悪を目指した原作では一対一の戦闘で犬士に勝てる敵は登場せず、悪役達は策謀や数の暴力で頑張っていたが、これをそのまま舞台でやっては大概面白くない。サクラ大戦シリーズにおいて六破星降魔陣完成後の黒之巣会の手強さの有り方が、ゲームでは「量」であったのを、漫画では「質」に変えたのと、同じ英断である(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130926/1380165723)。
 そして第三部は七犬士の力で山下定包を倒す。すみれが抜けて花組が七人になっていたので、犬江親兵衛がまだ仲間にならない状態のまま終わる。八犬伝で敢えて八人目を登場させないというのは、題名を事実上無視した異色中の異色作であった。
 花組メンバーの配役には賛同出来る組み合わせもあればそうでない組み合わせもあった。そこで以下に私なりに納得出来る組み合わせを人物論・作品論を兼ねて発表してみた。
 
サクラ大戦八犬伝を融合させた場合の配役の私案
※藤枝あやめ(かえで)…伏姫
 『新編八犬伝』と同じ。
 八犬士の誕生は伏姫を八房と金碗孝徳が奪い合った事に始まる。伏姫は八房を選んで富山に行くが、金碗孝徳の弾丸が伏姫も八房も殺してしまう。そして伏姫・八房の間に生まれた八犬士を孝徳が集め、やがて八犬士は金碗を氏とする。そして伏姫の正体は観世音菩薩であった事が判明する。
 これは、藤枝あやめを山崎真之介と大神が奪い合い、あやめが山崎を選んで聖魔城に行き、大神が二人を殺す、という流れに酷似している。そして山崎があやめに因んで作った霊子甲冑「菖武」は「光武」へと順調に発展し、それに乗る八人の戦士は大神の部下である。またあやめの正体がミカエルであったという点も、伏姫の設定に似ている。
大神一郎…金碗孝徳
 『新編八犬伝』と同じ。
 『サクラ大戦4』のエンディングで大神は特定の隊員と結婚出来るが、その後の時期を描いた諸作品の内容から察するに、トゥルーエンドは誰とも結婚せずに平和のための活動に明け暮れる毎日を選んだものと思われる。これがトゥルーである制作上の理由は、大神を特定の人物と結婚させると他の隊員と大神のカップリングを期待するファンからの怒りが凄まじいであろうからだと思われるが、作品世界内で理由を探すとすれば、それは大神が本当に愛したのは藤枝あやめだけであったからという事になろう。
 伏姫の面影を求めて当ての無い旅に出た金碗孝徳には、やはり大神が相応しい。
※中嶋親方…丶大法師
 丶大法師と金碗孝徳は一応同一人物だが、出家後はやはり髪の毛が無い方が良い。
※米田一基…里見義実
 『新編八犬伝』と同じ。
 降魔戦争の英雄である山崎に大事な副官を奪われた米田の立場は、対安西合戦の英雄である八房に大事な娘を奪われた里見義実に似ている。
※加山雄一…蜑崎照文
 金碗孝徳とコンビを組む名脇役、それが蜑崎照文。後半では船で移動する事が多く、こういう点でも「海はいいなぁ」の加山雄一と相性が良い。部下の直塚紀二六の都での活動も、月組の任務と内容が似ている。
※山崎真之介…玉梓・八房・妙椿
 玉梓・八房・妙椿は一体のものである。
 男性社会の身勝手な理由で処刑された玉梓の恨みは、人間社会の身勝手な理由で封印された降魔の恨みに近いであろう。その恨みを晴らそうとしたのが山崎である。
 八房との類似性は上述の通りである。
 妙椿が使用した「甕襲の玉」は、三種の神器の一つであり、善人が使用すると大いなる善をもたらし、悪人が使用すると大いなる悪がもたらされるという設定である。こうして妙椿も魔神器を悪用した山崎に当て嵌まる。
真宮寺さくら…犬塚信乃
 犬塚信乃は最初に登場する犬士であり、また滝沢馬琴自身の分身的存在でもある。信乃の持つ「孝」の徳は、儒教においては全ての徳の基礎とされる。信乃の父親である犬塚一戍は正義のために捨て身の特攻を行い、その時の傷が元で弱体化してしまった。信乃はその父から名刀村雨丸を受け継ぐ。後に名刀桐一文字も受け継ぐ。
 真宮寺さくらサクラ大戦の最初に登場するヒロインであり、また作品を代表するヒロインでもある。さくらの父親である真宮寺一馬は正義のために捨て身の特攻を行い、そのせいで寿命が極端に縮んでしまった。さくらは霊剣荒鷹を受け継ぐ。
※イリス=シャトーブリアン…犬江親兵衛
 犬江親兵衛は最年少の犬士だが、伏姫の霊が直接育てたため、最強である。儒教では「孝」の徳が基礎の代表とすれば、彼の持つ「仁」の徳は応用の代表である。どんな傷でも治し、死人ですら死後48時間以内ならば生き返らせられる不思議な薬を使用する。
 アイリスは最年少の隊員だが、霊力は最強である。"Iris"とはフランス語で「あやめ」を意味する。よって「帝国華撃団のヒロインは、あやめに始まりあやめに終わる」と言っても良い。アイリスも回復役である。
※桐島カンナ…犬田小文吾
 『新編八犬伝』と同じ。
 犬田小文吾は相撲の達人である。同じく素手の格闘技である空手の達人である桐島カンナと印象が被る。
※神崎すみれ…犬飼現八
 武術は我流が多い犬士の中で、犬飼現八だけは二階松山城介から由緒ある流派を習っている。プライドが高く、牢屋番の仕事を嫌がったために粛清された。犬田小文吾の乳兄弟である。犬士の中では京都での生活の期間が最も長い。
 すみれは、神崎風塵流免許皆伝にして、脇役を演じるのを嫌がり、カンナと本当は仲が良く、都会での生活も長い。
※マリア=タチバナ…犬山道節
 『新編八犬伝』と同じ。
 犬山道節は旧主が扇谷上杉氏に滅ぼされた事をいつまでも根に持っている。このため、抜け駆けが多い。かつて火遁の術の達人であった。北の果て陸奥国にまで行った唯一の犬士である。上司が人道的な決定をする度に軟弱であると見做して批判する傾向がある。
 マリア=タチバナはかつての隊長であるユーリの戦死をいつまでも引き摺っている。このため、抜け駆けが多い。かつて火喰い鳥と呼ばれていた。北の果てロシアの出身。上司が人道的な決定をする度に軟弱であると見做して批判する傾向がある。
※李紅蘭…犬坂毛野
 犬坂毛野は「智」の徳を持つ。余り表面には出さないが、道節に匹敵する遺恨も持っている。仇討のために芸者に変装した事もある。
 李紅蘭は発明の天才である。余り表面には出さないが、戦災孤児として強いトラウマを背負っている。調査のために芸者に変装した事もある。
ソレッタ=織姫…犬村大角
 犬村大角の父親もソレッタ=織姫の父親も酷い奴に見えたが、実はそれらは誤解だった。
 終盤では東京湾赤壁の戦いを再現するため、丶大法師が風を起こす手伝いをする。これを一言で纏めると「地中海の赤い風」にならなくもない。
※レニ=ミルヒシュトラーセ…犬川荘助
 『新編八犬伝』と同じ。
 大塚蟇六にこき使われた犬川荘助の少年時代の地獄は、バックストゥーム計画の非人道性に匹敵する。
※団耕助…蟇田素藤
 ギャング出身の大名という事で、ダンディ団のボスとしては山下定包よりも蟇田素藤の方を演じて欲しい。ただし、蟇田素藤に注目した里見八犬伝の改変としては鎌田敏夫の先行作品があるので、この影響から逃れる努力が必要となる。
※清流院琴音…細河政元
 名家出身の男色家。
※千葉助…千葉介自胤
 チバスケ。
南総里見八犬伝 全10冊 (岩波文庫)

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サクラ大戦4 ?恋せよ乙女?(限定版)

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