菅義偉氏は、自分の人生で最高の総理大臣であった。今だから言える。

 安倍政権時代に安倍政権の批判者の多くが、イデオロギーの差を超えて無理矢理連帯するために「安倍はやめろ」という単純なスローガンに頼った。スローガン頼りの数合わせというのは、まさに政権獲得前のファシズムそのものであった。

 そこで私は、「「安倍政権の暴走」よりも何倍も怖い「ポスト安倍政権の暴走」」という記事*1を書いた。

 要約すると「権力というものは暴走しやすいものであり、民主主義国家における権力の暴走の程度は、神輿の個人的資質よりも、政権批判・政権監視の質と量に左右される。そしてかつての森政権末期以上に長く「安倍はやめろ」の大合唱が続いたので、次の政権への監視は絶対に弱まる。だからほぼ確実にファシズムの時代が来る」という内容であった。

 だがこの予測は良い意味で外れた。

 ポスト安倍政権を担った菅義偉氏は安倍政権でも大いに活躍した人物であり、閣僚にも安倍政権時代から大臣であった人物が多々いた。このため「安倍はやめろ」ばかり言っていた人の新政権批判は、私が事前に予測していた程は弱まらず、馬鹿にもされなかった。

 つまり菅義偉氏は、本来は暴発する筈だったファシズムのエネルギーを、小出しにさせる事で鎮静化してくれたといえる。

 しかし私はそれを中々褒める訳にはいかなかった。「菅総理が反安倍ファッショの後始末をして下さっているんだぞ! みんな感謝せい!」等という内容の記事を発表してしまうと、それがまた政権批判・政権監視を弱めることとなってしまうからである。

 本日、総理が辞任の意向を表明した。仮に万が一この意向を撤回したとしても、かつて私が心配していたようなカリスマを短期間で入手することはあるまい。

 今だから言える。菅義偉氏は、自分の人生で最高の総理大臣であった。

 本当にありがとうございました、お疲れ様でした。

 私は死ぬ前にこれだけは言い残しておきたかったのである。