「怪獣使いと少年」の前史を語る。サトルから一の宮を経る系譜

 私はかつて「「怪獣使いと少年」を少し捻くれた視点から視聴」という記事(https://gureneko.hatenadiary.org/entry/20170828/1503916604)で、『帰ってきたウルトラマン』の「怪獣使いと少年」を語るには、後史である『ウルトラマンA』の「明日のエースは君だ!」と比較の上でなければならないという意味の主張をした。

 今回はその姉妹編として「怪獣使いと少年」の「前史」も語ろうと思う。

1.『ウルトラマン』の「怪獣使いと少年」のサトル

 この回ではウルトラマンとほぼ同等の戦闘力のメフィラス星人が登場する。メフィラス星人は宇宙恐竜ゼットン等と並んで最強の敵の候補とされやすい。

 メフィラス星人はサトルに地球を売り渡すよう要求し、それを拒否されたのが一因となって撤退していった。

 それが「日本」であれ「沖縄」であれ、「ガイジン」や「ヤマト」といった外部勢力に通謀しないことを美徳としたい人達(所謂ナショナリスト)は、この回を絶賛する傾向がある。

 だがウルトラシリーズはそのような単純なプロパガンダに利用される事を好まず、すぐに「そんな単純な教訓を得て満足していて、本当にいいのか!」とすぐに別の視点を用意してくれる作品なのである。

 次にこのサトルのアンチテーゼとして作られたキャラを見てみよう。

2.『ウルトラセブン』の「ひとりぼっちの地球人」の一の宮

 この回では無敵の分身体を操るプロテ星人が登場する。プロテ星人はガッツ星人等と並んで最強の敵の候補とされやすい。

 地球人に絶望した「一の宮」という学生はプロテ星人に通謀していたが、最後にはプロテ星人が実は侵略者だったと気づく。そして組織の内側からプロテ星人の野望を打ち砕いたため、劣勢だったウルトラセブンは自動的に勝利者になれた。

 もしも『ウルトラセブン』の世界の地球人が全員サトルのように頑迷なナショナリストだったならば、当然ながら一の宮のような逸材も登場せず、プロテ星人は初期の情報収集にこそ史実より手間取るものの、最終的にセブンに完勝して侵略を成功させていた可能性すらあったのである。

 つまりこの回は、サトルの「攘夷」(夷人を打ち払い日本の独立を守れという運動)に過度に共鳴していた者に、「大攘夷」(日本の独立を長期的に守るためには夷人と一定の交流をする方が良いという立場)という冷や水を浴びせる効果があったのである。

 「一の宮」という言葉には「皇太子」という意味もある。この回のロケ地は学習院大学である。これはもう常識的に考えて、「さあみんな、「禁じられた言葉」に一捻り加えた対比の回を放映するから、「国」とか「愛国心」といったものについて複眼的思考をしてみよう!」と呼びかけている可能性が非常に高い。

3.そして佐久間良

 以上の系譜を経て、佐久間良がやっと登場するのである。

 「攘夷」や「大攘夷」といった正義感は無く、単に自己利益のためにメイツ星人と通謀したがっている少年である。もしも相手がメフィラス星人であったならば、地球は占領されていたかもしれない。

 しかしサトルや一の宮と異なり、家族も富も才能も持たずに排斥されているからこうなったのである。

 「人類の多数派の側から勝手に仲間外れにした立場の者を、「攘夷」や「大攘夷」といった倫理で裁いていいのか?」という鋭い問いが、ここでは突きつけられている。

 その問いを十全に理解するには、やはり「前史」の視聴・比較が大事なのである。