『まぼろし探偵』全話視聴計画(第26話)

第26話 七色真珠
 日本に亡命してきたアナトリア王女が、部下のタイロン・シメノルと共に湯河原に滞在している。だが王位を狙うパスカルは、ダンカン・リュック・ビリーを率いて付近まで来ていた。
 以上の七人の外国人を演じるのは全員日本人俳優である。そしてこの連中、自国民同士で会話する時でも日本語を使用するのである。どうやら彼等の国の公用語は日本語の様である。
 パスカルが危険を冒して敢えて日本に来たのは、彼等の国では七色の真珠を鏤めた王冠を持たなければ王として認められないからである。話が始まった時点で、パスカルは既に王冠と四色の真珠とを手に入れている。
 そこへリマール王女やオリオン王子やアラカン王子の時の様に取材にやってきたのは、いつもの富士進と黒星十郎。道中彼等は、狙撃されて瀕死の状態になっていたシメノルを発見し、青色真珠が奪われた事を聞かされる。シメノルはその直後死亡し、死体も二人が立ち去った後で隠されてしまう。
 ホテル到着後、黒星が湯船に手拭いを漬けるというマナー違反を犯しながら温泉に入っている時、リュック・ビリーは王女の部屋に侵入し、黄色真珠を奪う。
 進は大急ぎでまぼろし探偵に変身して戦い、赤色真珠が奪われる事態だけは防ぐが、追跡には失敗してしまう。やはり一国から選りすぐられてきた工作員だけの事はあって、二人とも第16話の白狐に匹敵する身体能力を持っていたのだろう。
 これだけの被害に遭っても、王女は何故か日本の警察に頼らない。また、最後に残った赤色真珠をまぼろし探偵に預けるという決断をする。しかしこの情報はパスカルには筒抜けになっており、パスカルは即座に標的をまぼろし探偵に変更する。
 パスカルは計略によってまぼろし探偵を誘き寄せ、捕獲に成功する。赤色真珠を取り上げた後、簀巻きにして崖から海に放り棄てる。実はこの赤色真珠は偽物であり、まぼろし探偵もまた辛うじて生き延びるが、第20話で大須賀金融から受けた仕打ちを上回る、現時点までにおける最大の打撃であったのは間違いない。
 この直後、青・赤・黄以外の真珠の色が明らかになる。虹の色だろうという大方の予測を裏切り、・緑・紫・である。白真珠と黒真珠は、幾らでも偽造出来そうである
 まぼろし探偵は、呼び寄せていた吉野さくらに王女と衣装を交換させ、身代わりに仕立て上げる。これは意図的に攫わせた後を尾行して隠れ家を発見しようという作戦であった。
 前日にはまぼろし探偵から逃げ切ったリュックとビリーも、流石に少女一人を担いでいると尾行を撒くのは無理だった様で、作戦は成功する。さくらを運んだのが運の尽きというのは、第14話でも見られた現象である。まぼろし探偵はこれにヒントを得たのかもしれない。
 この作戦中、さくらがどんなに流暢な日本語で応答しても、タイロンも黒星もパスカルもダンカンもリュックもビリーも、全く異変に気付かない。いつもながら『まぼろし探偵』では、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』等と同様、どんな簡単な変装も不思議な程ばれにくいのである。余談だがフィクションにおけるこうした変装への風刺としては、高橋留美子の『うる星やつら』の「くノ一、京に潜む・・・」の回が秀逸である。
 まぼろし探偵は、隠れ家付近での戦いでも一時的に劣勢に陥るが、駆けつけた黒星が敵の背後に奇襲を加えたので逆転する。
 それにしても黒星、精鋭部隊への奇襲に成功するとは見事である。彼は第5話でもまぼろし探偵を羽交い絞めにする事に成功しているので、気配を消して背後から忍び寄る技術に優れているのかもしれない。
 パスカル一味は王冠と六色真珠を奪還されはしたものの、今回も全員が逃走に成功する。まぼろし探偵も足の速さの違いが既に身に染みていたのか、後の事は全て警察に任せてしまう。パスカル一味がその後どうなったのかは不明だが、過去の実績から見て警察の能力はまぼろし探偵の能力に著しく劣っているので、おそらくは捕まらなかったと思われる。
 総合的に見て、「最強の敵組織」の地位は、大須賀金融からパスカル一味へと移ったかと思われる。

黒蜥蜴 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

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