童話

元号と西暦と7月の悲劇

冒頭、世六と源五郎が激しく論争をしている。そこへ李綜が通りかかる。 世六「元号という制度は天皇が時間を支配するという意味が込められているので、非民主的です。だから廃止して西暦に統一しましょう」 源五郎「西暦はキリスト教だけを贔屓にするものな…

責任者

〜五月の授業風景〜 先生「奈良の大仏を作ったのは誰でしょう?」 生徒A「予習していたので知っていまーす。聖武天皇でーす。」 先生「ぶっぶー!作ったのは職人さんたちです。これこそが先生の教えたい人民の歴史なのです。」 生徒B「大日如来は作られる…

『虞禮寧子』虚襤褸子篇(問老章)

甲「僕が思うに、他国の愚かな戦争の巻き添えで自国の兵士が危険に晒されるのは良くない事だよ。なるべくそういう機会は減らしていくべきだ。その種の危険が避け難い場合にも、せめて十分な対価を頂かなくては、死んでいった兵士が浮かばれないよ。これにつ…

衆愚政治

外国人「ふむ、貴国では馬鹿な首相が愚民を扇動して衆愚政治を行っているという訳ですね。ならば対策は簡単です。貴方達はあの馬鹿な首相より賢いでしょうから、より上手に愚民を扇動出来る筈です。そして愚民の支持を背景に政権を奪還した上で、教育によっ…

中学校で異分子だったボクと東先生の話

小学生の頃のボクは、色々と自分で考える子だった。なぜ自分で考えることにしたかというと、偉い校長先生がそう命じたからだ。 考えてばかりだったので、いつも孤立していた。 いっぽう、何も考えていない子たちや何も考えていない蟻さんたちは集団行動が得…

沈黙

忘れもしない大学二年生の夏、ある過激派(以下、「組織甲」と表記)の学生たちが、ある法案に激しく反対していた。 組織甲の副委員長は署名を集めるために私の部室にまで押しかけてきた。部屋には私しかいなかったが、副委員長は熱心に自説を開陳した。 私…

ほうげん

「我に従え!我に従わざるは悪魔ぞ!悪魔を滅ぼせ!」 「滅ぼせ!滅ぼせ!」 宗教法人「國學の楓香」の宗家兼指導者である小鳥遊和雅歌(たかなし わがか)は、今朝も演説をいつもの文句で締めくくった。 自室に戻った彼女は、気絶するまで続ける事が義務付…

最後の懺悔

あるパラレルワールドに、一つの中規模な新興宗教がありました。 この宗教は、中園信吾という霊界の真実を透視出来ると主張する人物を、彼の家族が金儲けのために共謀して教祖に仕立て上げて作られた宗教でした。家族は、彼に中園信吾の名前も捨てさせ、「霊…

地獄通信(続報)

第一報→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130604/1370284053「続いて非常に挑発的な質問をいたします。Aさんは一体何故そんなにも他人の自殺を防ごうとするのですか?」 「何故人を生かしてはいけないのですか?」 「私は皆さんの活動のせいで死ぬ事も出来…

ささげもの

「俺にはその死神しか友達がいなかったんだ。だから死神まで取り上げないでくれ。」 俺は必死でそう心の中で叫んだ。口に出す程の勇気が無かったから。 死神には表情というものがないが、仕草というものがある。その仕草から類推するに、死神は死神処刑人よ…

達哉君の早朝トレーニング

早起きをした達哉君がジョギングをしていると、核兵器屋のおじさんが町の写真を盛んに撮っていました。 「おはよう、核兵器屋のおじさん。さては僕の町を火の海にする下準備をしているね。やめてもらえないかなぁ?」 「おはよう、達哉君。この町は君の町で…

堕地獄を怖れた人々

Q:私は霊感商法をしている33歳の主婦です。悪い事だとは思って何度も止めようとは思ったのですが、所属している宗教団体の偉い人から「止めると地獄に堕ちるよ。」と脅されているので止められません。どうしたら良いでしょうか? A:自分が地獄に堕ちるのを…

『虞禮寧子』虚襤褸子篇(蛇女男章)

昔々或る地域に、生き延びるためにはより多くの武器を持って敵に備えるべきか、それともそうしない方が得策であるかをめぐって、延々と白熱した議論をしていた民族がいました。 「妥協を重ねると土地を徐々に奪われて飢え死にしてしまう。」 「しかし敵を刺…

もしも世界が素晴らしければ・・・

辰雄くんがファーストフードのお店で真面目に順番を待っていると、薄汚い心の老人が列を無視して注文を始めました。店員さんも人間のクズだったため、事なかれ主義を発揮して老人の注文に応じました。 辰雄くんは心の中で叫びました。 「お前たちは生きるに…

『虞禮寧子』虚襤褸子篇(蔵院章)

今日も蛇が自分の尻尾をくわえながら世の中の人々を馬鹿にしていると、突然壺屋がやってきて言いました。 「随分楽しそうにしているけど、よりハイレベルな永遠性を教えてやろう。尻尾を半回転させてからくわえて御覧よ。」 蛇はこの助言がすこぶる気に入っ…

『虞禮寧子』虚襤褸子篇(空無章)

アダムが農耕に励んでいると、かつて木の実を食えと唆した蛇がやってきました。アダムは怒って耕耘機を用いて蛇を切り刻もうと迫りました。蛇は驚いて聞きました。 「何故僕を切り刻もうとするんだい?」 「貴様によって私は知恵を得た。そのせいで楽園を追…

『虞禮寧子』虚襤褸子篇(道外禰子章)

最近私は『虞禮寧子(ぐらいねいし)』という奇書を入手した。気に入った箇所の拙訳を披露していきたいと思う。 「性欲は自力で満たせるが、食欲はそうはいかない。困った事だ。」 ディオゲネスが世界人類の経済活動から独立出来ない事をこう嘆いていると、…

自分の生命を自然の摂理に委ねた子(挿絵、準同居人某)

節子ちゃんは十五歳の頃、酷い苛めに遭っていました。両親にも相談したのですが、両親は忙しく、また世間体を気にしたために、節子ちゃんの必死の訴えを聞いていない振りをしていました。 そのけっかとして節子ちゃんは心身共に深い後遺症を負い、それ以来ず…

死んだ孫にそっくり

「見れば見るほど、死んだ孫にそっくりぢゃ!」 老人が無遠慮にこの台詞を吐くのはもう三度目であった。そろそろ不愉快になり始めていたのだが、この顔の御陰で野宿を免れたのだから、やはり我慢すべきなのだろう。一度安心してしまったこの脚と精神では、も…

豚さんたちの選択

ある日、いつもの様に豚さんたちが仲良く餌を食べながら雑談に耽っていると、革命家さんがやってきました。 まず革命家さんは、豚さんたちがやがては人間に食われてしまう存在だという事を、豚さんたちに教えました。豚さんたちは戦慄しました。 次に革命家…

施餓鬼会

生物に捧ぐ シモンは砦の東の窓から外の光景を眺めた。そこでは、食屍鬼達が、食人鬼にも食屍鬼にもなれなかった人間の死体を食らっていた。 南の窓から見える光景は、確かに東の窓から見える光景よりは、希望が持てるものであった。そしてそれ故に、より残…

森のおいも屋さん

世界中の猫が別の世界へと逃げ出してしまった程に暑い暑い日に、私は一匹だけ逃げ損ねた猫と一緒に森へ向かった。私たちは森の奥でおいも屋さんを開きたかったのだ。 緑が私の目を癒したので、私は感嘆した。猫は 「美しく見えるあの繁みだけど、近付くと蚊…

曹丕の愛情

窅侯に捧ぐ。 高官「陛下、于禁が送還されてきました。見せしめのために殺しましょう。」 曹丕「若き日の于禁の活躍が無ければ、父上は覇業を達成出来なかったであろう。不利な状況で一度だけ降伏したからといって、殺すのは良くない。」 高官「しかし于禁の…

追憶

その日私は、当時所属していたボランティア団体の活動の一環として、近所のごみ屋敷の住人を説得しに行った。ごみ屋敷の主人は「ミーゴ爺さん」と自称する老人で、実際に会ってみると意外にも気が良さそうで身嗜みもしっかりした老紳士然の人物であった。 「…

投了(挿絵・友人某)

知人が新興宗教に入信した。現役の牧師の息子だったので、町ではそれなりに話題になった。 彼の父である牧師が、私に彼を説得して欲しいと依頼してきた。私は承諾し、知人を訪ねた。 「父君は心配していました。これは一つの提案なのですが、納得がいくまで…

テレビゲームの弊害――未来ある子供達へのメッセージ

「青少年の間でこの社会を適切に運営し続けるには弊害であると思われる一群の思想傾向が流行しており、その主たる原因はテレビゲームのせいだと、一部の識者は指摘しています。本日は『恐怖のゲーム思想脳楼閣』の著者、毛利安芸守先生をゲストに御招きして…

しゃれこうべ

往復書簡の相手に捧ぐ ある日背後から斬り殺されて落命し、その後腐敗が進み、気が付くとしゃれこうべになっていた。不思議な事に脳を失ってもこうして考える事が出来るし、眼球を失っても視覚は失わなかった。 なおこの自分の姿については朝露の反射等の断…

人間・内藤勝夫

当時は強い差別の対象であった母子家庭に生まれ育った内藤少年は、偉人の伝記を読むのが好きであった。そこには、周囲の無理解の果てに、ソクラテスやキリストが刑死し、孔子が彷徨し、仏陀が自殺願望を持った、と書かれていた。内藤少年は大いに涙し、精神…

夜汽車

車両の端の方で麦酒缶を片手にして意味不明な言辞を連ねていた老酔客が、不愉快な事に私の座席の方に近付いてきた。彼が吼える場所を変えたのには彼なりに理由があるのだろうが、その理由が何であれ不愉快である事に変わりは無い。 先程まで不愉快で無意味な…

自害の余殃

三年前の今頃、恋人が自殺をした。正確には、恋人であったかもしれない知人(以下、「甲」と表記)が自殺を予告してきた。甲は自殺をする直前、私に電話をしてきたのである。 その電話の内容を簡潔に纏めると、甲は私を実は憎んでおり、憎んでいたのに付き合…