地獄通信(続報)

第一報→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130604/1370284053

「続いて非常に挑発的な質問をいたします。Aさんは一体何故そんなにも他人の自殺を防ごうとするのですか?」
何故人を生かしてはいけないのですか?
「私は皆さんの活動のせいで死ぬ事も出来ずに何年間も苦しみながら生きている人を知っています。これは残酷な行為ではないでしょうか?」
「では私も少々挑発的な回答をいたします。我々は人を生かしたいから生かしている快楽活人鬼です。それ以上遡った所に理由は有りません。」
 
「ここ数年Aさん達の活動で、本邦の年間自殺者数は激減していますね。政府はその数値を内外に大々的に発表して高い評価を恣にし続けています。しかし私は自殺を防がれつつ苦痛を感じながら生かせられ続けている人々の取材を続ける内に、そうした姿勢に疑問を持ちました。実際には誰も幸せになっていません。これは一種の詐欺ではありませんか?」
「我々が騙しているのではありません。選挙民の側から、生活の実感よりも具体的な数値で政治を評価するという姿勢が示されたので、我々はそれに応じた政策を採用しているだけです。」
「それは民衆の愚かしさにつけこんでいる事になりませんか?」
「実は取材を受ける前に君の経歴を調べさせてもらった。志望学部の入試で数学の配点が高い事に目をつけ、現国の時間に数学の内職をしまくっていたそうだね。そして自分よりIQや勉強量の多い他の受験生を蹴落として何とか合格。我々が卑怯だというのならば、君もまた不当に地位を得て税金を浪費した卑怯者さ。」
 
「貴方の属している教団では、毎年Aさんの運動に多額の寄付をしているそうですね。あと信者に対しては自殺をすると死後不幸になると教え、自殺者を罵っているそうではないですか。何故そこまで自殺を憎むのですか?」
「表向きは色々と教学上の理屈をつけていますが、ここだけの話、その根底には羨望に基づく憎悪があります。我々が懸命にエバモカイン=ドタオーキレ神様に仕えているというのに、自由意思を発揮してサティアンから逃げ出す連中がいます。彼等を罵る事で集団が維持されるのです。そして自殺も一種の逃亡ですからね、叩くのは当然でしょう。我々宗教家だけがこの暗い熱意に耽っている訳ではありません。国境や生死の境を越えて逃亡した者を悪と見做すというのは、多くの専制国家でも採用されている倫理です。」
「罪悪感は無いのですか?」
「人聞きの悪い!罪悪感ぐらい有りますよ!だから自殺以外の死因を色々と作ってやってるじゃないですか!あんたもジャーナリストならそれぐらい風の噂で知っているでしょう!」
 
「・・・という訳で、貴方の生存は、下らない連中の下等な欲望を満たすのに利用されているんですよ。失礼を承知でお聞きします。地獄という可能性に脅えて日々苦しみながら生き続けている、そんな自分の人生をどう評価されますか?既にこの状態こそが地獄だとは思いませんか?」
「確かに私の人生は地獄と大差が無かったように思う。ところで聞かせてくれ。充実した人生を送っている世の中の多数派の視点からは、この世界は地獄以外の何か別の世界に見えるのか?」