森のおいも屋さん

 世界中の猫が別の世界へと逃げ出してしまった程に暑い暑い日に、私は一匹だけ逃げ損ねた猫と一緒に森へ向かった。私たちは森の奥でおいも屋さんを開きたかったのだ。
 緑が私の目を癒したので、私は感嘆した。猫は
「美しく見えるあの繁みだけど、近付くと蚊で一杯だと判るよ。」
と反論した。
 私達はおいも屋さんを開くのに相応しい場所を探してさまよい続けた。
 しばらくして白骨で建てられた教会を見つけた。
「ちょっと不気味だね。お化け屋敷だろうか?これも人類が作ったの?」
「確かに今の我々には理解し難い精神に基いた建物だね。でもね、昔の人類は、ある日全ての死体が蘇ると真剣に信じていたんだ。」
「猫の骨が使われていないね。その日には猫もちゃんと蘇るんだろうか?」
「私は知らない。もしも建築材が蘇ったら調べてみよう。」
「じゃあここを僕達のおいも屋さんにしよう。」
 私もこの提案には大賛成だった。一つだけ残念だった事は、ここには商品となるべきおいもが都合良く転がっていたりはしなかった事である。仕方が無いので、看板の他にも「本日は売り切れました。」と書いた札を、骨角器を用いて骨から作った。
「もしももっと暑くなって夏になったら、次は金魚屋を開きたいな。」
と猫がつぶやいた。
 私も次は金魚屋さんでも良い様な気がした。