豚さんたちの選択

 ある日、いつもの様に豚さんたちが仲良く餌を食べながら雑談に耽っていると、革命家さんがやってきました。
 まず革命家さんは、豚さんたちがやがては人間に食われてしまう存在だという事を、豚さんたちに教えました。豚さんたちは戦慄しました。
 次に革命家さんは、自由を求めて逃げ出せと豚さんたちを煽りました。半分ぐらいの豚さんたちは革命家さんの見解に追随し、力を合わせて逃げ出そうと叫びました。
 残りの半分の豚さんたちは、肉屋さんを擁護しました。自分たちが今まで飢えもせずに生きて来られたのは食肉産業のシステムの御陰であり、仮にそうした過去の恩を度外視するにしても、そもそもやはりここに留まった方が却って長生き出来るというのが、彼等の主張でした。
 自由派の豚さんたちは、逃げ出す際の手助けが欲しかったのと、自分が追跡の対象になる確率を少しでも減らしたかったので、独立独歩の重要性を訴えました。
 残留派の豚さんたちは、一時的にとはいえ一頭当たりの床面積を倍増させたかったので、自由派を無理に引き止めるための工作を行いませんでした。
 結局自由派は根負けして、自分達だけで壁を破壊して出ていきました。
 その後、自由派の豚さんたちは、ある者は餓死し、ある者は捕まって殺され、ある者は狼さんに食い殺されました。死ぬ間際に逃亡を後悔した豚さんもいれば、最後まで自由の偉大さを感じながら死んでいった豚さんもいました。
 一方自由派の逃亡の際に通気性が良くなり過ぎた豚小屋は、なんとその日の内に火事になったそうです。このため逃亡事件は発覚せず、肉屋さんは因果関係を取り違え、火事になったからこそ半分の豚さんが逃げたのだと思いました。
 肉屋さんは刑事罰を恐れ、火傷をしたり焼け死んだりした人間がいなかったかどうかばかり気にしていました。
 なお革命家さんは、狼さんから金を貰った事は一度も無いそうです。