もしも世界が素晴らしければ・・・

 辰雄くんがファーストフードのお店で真面目に順番を待っていると、薄汚い心の老人が列を無視して注文を始めました。店員さんも人間のクズだったため、事なかれ主義を発揮して老人の注文に応じました。
 辰雄くんは心の中で叫びました。
「お前たちは生きるに値しない害悪だ。死んでしまえ。そうすれば世界はもっと美しくなる。」
 すると薄汚い心の老人が突然振り返って言いました。
「世界が君の理想とする程度に気高く美しいものであれば、エデンにアダムが居てはならなかったが如く、そして高天原スサノオが居てはならなかったが如く、私にもまた確かに世界に存在する資格は無いと言えよう。だがね、この世界は私の様な人間にとって丁度良い程度に汚らしいのだよ。そもそもこの世界の方こそが、君の様な気高い人格の持ち主に生きて頂くだけの資格が無い事に、この問題の根本的な原因があるのだ。」
 人間のクズの店員さんも言いました。
「それに世界がもしも貴方の理想の如く気高く美しかったとして、貴方はその場合、死の恐怖に耐えられたかしら?世界が程々に汚いからこそ、退場を余儀無くされる事について諦めがつくのではなくって?」
 辰雄くんは、成程尤もだ、と思いました。そして薄汚い心の老人と人間のクズの店員さんを殺した挙句、いずこかへ去りました。おそらく人知れず自殺でもしたのでしょう。
 辰雄くんの後ろに並んでいた人々は、この事件のせいで予定時刻に昼食にありつけなかったため、一様に憤慨しました。その様子を見ていた客の一人が挑発しました。
「食べてから殺人の現場を見せられて気分が悪くなった方の身にもなってみろ。」
 床の血を拭いていた掃除婦の一人は、これに対して冷静なコメントを述べました。
「やれやれ、動物の死骸を貪りに来たくせに、何を繊細ぶっているんだか。」
 すると到頭、世界創造主の堪忍袋の緒が切れました。
「口より手を動かせ!」