自分の生命を自然の摂理に委ねた子(挿絵、準同居人某)


 節子ちゃんは十五歳の頃、酷い苛めに遭っていました。両親にも相談したのですが、両親は忙しく、また世間体を気にしたために、節子ちゃんの必死の訴えを聞いていない振りをしていました。
 そのけっかとして節子ちゃんは心身共に深い後遺症を負い、それ以来ずっと寝たきりになりました。両親は流石に少しは罪悪感があったのか、その後も節子ちゃんを養い続けました。
 心の広い男性が節子ちゃんを嫁に貰ってくれる日が来るのを三人は待ち続けました。しかし十五の春秋を経る頃には、そろそろ諦めの境地に達し始めていました。
 長年の陶冶で勘が異常に鋭くなっていた節子ちゃんは、ある日両親の表情から、「節子が死んでくれていたなら、我々の人生はどんなにか幸せに満ちたものだったろうか。」という思いを読み取れた気がしました。そこで節子ちゃんは自殺を思い立ち、両親に相談しました。両親は思いとどまるよう説得してきました。節子ちゃんは、「盗人猛々しいな。」という感想を持ちました。
 その夜、密かに節子ちゃんは考えました。
「人間は誰しも事実上吐露している本音を音声化しない事で、罪悪感を弱めている。あの連中が正直に本心を言わなかった事も、敢えてもう咎めるまい。あの状況では『死ぬな。』というのが定石だろう。」
「だがその定石を見越して『私の自殺を阻止して私を養い続けると決意を新たにしたのは諸君だろう!』と言外に主張するための布陣を敷いたと誤解されるのも業腹だ。私は下等な人類の大半と違って心が清いのだから、そんな布陣を敷いたりはしない。この心の清さを自他に承認させ続けなければならない。やはり自殺は決行しよう。」
「しかし今直ぐ死んだのでは、反対を押し切って自殺する事で反抗心を表明したと誤解されるという危惧があるぞ。」
「一体何日後に死ねば、一番わざとらしくなくなるだろうか?考えれば考える程、わざとらしくなりそうだ。」
「そうだ!私は真理に到達したぞ。生命は自然から生まれたのだ!ならば私の生命は私が私して良いものではなく、自然の摂理に委ねるべきであったのだ。嗚呼、なんと素晴らしい思いつきだろうか。私はこの真理に到達するための修行を今日まで続けてきたのか。」
 節子ちゃんは自殺の日程を決めるために、サイコロを振りました。