堕地獄を怖れた人々

Q:私は霊感商法をしている33歳の主婦です。悪い事だとは思って何度も止めようとは思ったのですが、所属している宗教団体の偉い人から「止めると地獄に堕ちるよ。」と脅されているので止められません。どうしたら良いでしょうか?
A:自分が地獄に堕ちるのを回避するため悪事を行っているという事は、貴女は究極の快楽主義者の様ですね。そういう人には外部から何を言っても無駄なので、私は何も言いません。自分なりに勝手に功利計算を続けなさい。あと、「地獄なんて無いよ。」と私に言って欲しいのであれば、無駄です。私は根拠無くしては何かが確実に存在しない等と放言したりはしませんので。

 昔々、ある寺に、「B」・「C」という二人の僧がいた。
 当時その寺では仏像を作る計画が進んでおり、大量の銅が寄進されていた。
 ある日、信心深い御婆さんが家宝の銅の鏡を寄進したため、胴は以前鋳物師が指定していた質量に漸く到達した。
「ひゃあオラの鏡でちょうどだか?ありがたいことぢゃ。」
「良かったね、御婆ちゃん。この功徳は大きいよ。必ず今日の内に鋳物師に届けてあげるからね。」
 この最後の鏡を鋳物師の所へ持っていく役目は、BとCに任された。
 ところが二人は途中で飢えた母親と赤子に出会ってしまった。この親子は飢え死に寸前だという。
 BはCに提案した。
「なあ、この銅の鏡を親子に与えようではないか。売れば当座はしのげようぞ。」
 しかしCは即座に反対した。
「それをすれば、我々はあの老婆に嘘を吐いた事になる。またこれは既に御仏の財産である。それを盗めば地獄に堕ちるぞ。」
「ならば私一人がその責めを負う。えへん、あー御仏様よ、今から独断で貴方の財産をこの親子に与えます。」
 二人は寺への帰り道に延々と論争を続けた。寺に帰った後も、他の僧を巻き込んで延々と論争を続けた。
 
 やがてBは死に、死後の世界での生活を始めた。
 Bが行った死後の世界は、それなりに待遇の良い場所だった。それなりに平和で、皆が修行に勤しんでいた。
 Bはそこで、程々に修行し、程々に後進を育成し、程々に生者の願いを叶える日々を過ごしていた。
 ある日、Bが温泉に浸かって休憩をしていると、Cの声が聞こえてきた。
「ほら見ろ、Bは地獄で釜茹での責め苦に遭っているぞ。だから言っただろう、幾らこのように寒いといっても、地獄よりかは良いってな。どうだ諸君!拙僧について来て、大正解だったろう!」