曹丕の愛情

窅侯に捧ぐ。
高官「陛下、于禁が送還されてきました。見せしめのために殺しましょう。」
曹丕「若き日の于禁の活躍が無ければ、父上は覇業を達成出来なかったであろう。不利な状況で一度だけ降伏したからといって、殺すのは良くない。」
高官「しかし于禁の早過ぎる降伏のせいで、一度は幽州への遷都まで議案になったのですぞ。あの頃の私なんか、荷物をもう北に送り始めていたために、とんだ出費でした。同じ被害にあった友人は沢山います。」
曹丕「だからこそ関羽の補給線が伸びきり、呉は関羽を滅ぼせたのだ。結果論とはいえ関羽を破滅させたのは于禁である。いや、于禁程の名将の事だから、全ては予め計算済みだった可能性すらある。」
高官「しかし魏の武将が簡単に降伏すると思われたのは恥辱です。それに仮に于禁の降伏が偽装だったとしても、厳しく罰しておかなければ猿真似をする武将も出てくるかもしれません。」
曹丕「それこそが私の狙いだ。嗚呼、私には未来が見えるぞ・・・。どうせ于禁みたいな奴だと油断されていた魏からの降将が、宴会の席で蜀の大物を殺す場面が思い浮かぶ・・・。」
高官「わわわ。私にも、百日籠城した後で必ず降参すると偽って呉の大軍を足止めする魏の名将の雄姿が思い浮かんできましたぞ・・・。」
曹丕于禁には何か褒美を呉れてやりたいぐらいだ。」
高官「では呉王への勅使に任命なさいまし。于禁はかつて自分を蔑んでいた連中を土下座させるという最高の快楽を味わえるでしょう。呉王の捕虜だった男がやがて呉王を越えるとは、まさに臥薪嘗胆の故事そのものです。」
曹丕「臥薪嘗胆か・・・。そうだ、于禁には自分が関羽に降伏した時の少々情けない姿を題材にした絵をやろう。その時の苦労があったからこそ今の自分があるという感慨を新たにする筈だ。」
高官「より大きな感動を与えるには、于禁がその絵を見る状況にも配慮しなければなりませんぞ。」
曹丕「ようし・・・極めて異例の厚遇になるが、今まで私しか知らなかった父上の本物の墓の所在を、于禁にだけは教えてやろう。そこで父上と共に戦った頃の苦難や捕虜としての隠忍自重の日々を思い出させ、その後で勅使として煌びやかに旅立ってもらおう!」
高官「わわわ。また未来が見えてきましたぞ。司馬孚の子孫が歴史家となって陛下の広大なる慈悲の心を称えるという、かなり具体的な未来予想図です!!」