「せんみつ」・「三味線」・「悪魔」・「マクベスの魔女」の中で一番怖いのは・・・

 「せんみつ」という俗語がある。意味は複数あるが、ここでは「真実を言う確率が0.3%の極端な嘘吐き」という意味で用いる。
 こういう人間は、何でも信じてしまう子供には強敵だ。大人にとっても、何の情報もない状態で初対面だった場合には、かなりの強敵だ。一期一会の状態で詐欺をする能力には長けている。
 だが所詮はそこまでだ。二度三度と同じ相手に騙される人間は少ない。だから八百屋等を営むと、すぐに正直者の同業者に利益を追い抜かされてしまう。
 次に、麻雀で「三味線」と呼ばれるブラフ行為をする者がいる。ポーカーでも、敢てポーカーフェイスをせずに百面相を試みる者がいる。
 だが嘘ばかりではすぐに「せんみつ」同様に裏をかかれる。裏をかかれるのを防ごうとすると、結局は真実を言う確率を50%に近づけなければならなくなる。そうなると今度は発言も顔も無視されるようになり、結局は自分だけ喉と顔を疲れさせてしまうだけという事になる。
 次に「悪魔は99%の真実に1%の嘘を混ぜてくる」という俗説がある。これは確かに本当に手強い。普段は正直者を装っていながら、ここ一番という所で裏切ってくるのであるから。
 評論家であれ、政治家であれ、宗教家であれ、インテリは「せんみつ」と「三味線」には強いが、「悪魔」にはコロリと騙される場合がある。
 だが本当に怖いのは、嘘をまったく言わないマクベスの魔女なのだと最近気付いた。
 例えば「選挙なんかしない方が、その費用を浮かせられますよ」と叫ぶ。これ自体は決して嘘ではない。そうしておいて「ただし選挙が無いと権力者が腐敗して税金を盗む様になるので、余命がX年以上の人にとっては却って損でしょうね」という部分だけ、言わないのである。
 これが「長生きする人にとっても得ですよ〜」と嘘を言ってくれたら批判もしやすいのだが、敢て巧妙にそれを匂わす程度で終わらせてしまい、いざという時の訴訟や政治的責任の追及を回避するのである。
 こういう人の誘導から逃れるのは難しい。
 そしてもう一つ気を付けるべきなのは、自分がいつの間にか、悪意無きマクベスの魔女になっていないかという事である。
 以下は自戒を込めての提言なのだが、自分の事を「魑魅魍魎だらけの二十一世紀の荒野において、燦然と輝く正直者の孤塁!」等と思っている人は、今まで自分が何人のマクベスを地獄に堕としたか、今一度数え直してみて欲しい。

マクベス (新潮文庫)

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