書籍の内容偽装問題

 ここ数年間の日本は、耐震偽装や食品の生産地・賞味期限偽装問題に揺れ続けた。日本人の道徳性が地に墜ちたが故の傾向ならば、日本ももうそろそろ終わりである。しかし過去から行われ続けていた悪事が、科学の発達と経験の蓄積による警察の捜査力とマスコミの取材力の向上の故に漸く暴露され始めているのならば、日本の真の栄光の歴史が今まさに始まろうとしていると言える。
 以上は前置きなので、どちらの原因がより強いのかは、ここでは検証しない。
 私が疑問に思うのは、嘘ばかり吐いていた元一級建築士や客に変なものを喰わせていた女将があれだけ叩かれているのに、何故嘘ばかり延々と並べた本の著者の方は平然としていられるのかという事である。読書では直接の圧死や中毒死は起きないものの、プロパガンダが形成する過てる国論は、時として数百万の人命を損なう。
 この問題につき、公権力がしゃしゃり出て来ない点についてだけは、憲法第二一条の精神に照らして寧ろ正しいと思っている。しかし民間人はもっと声をあげて良いのではあるまいか?
 実際同じ「言論・表現」の問題でも、マスコミ、特に朝日・産経が少し嘘を吐くだけで、毎度毎度大騒ぎになっている。ならば個人の著作物に対してももう少し内容が検証され、時として社会問題になっても良いのではなかろうか?
 これは仮定の話だが、もしも初めから終わりまで延々と嘘ばかり書いた約750円の本が200万部売れたとすれば、読者の直接の被害総額は15億円である。その本に踊らされたが故に更なる無駄金を費やす人もいるかもしれないが、それはさて置く。そして単純に購読者の直接の損害の話に限っての比較だが、もしもある日の読売新聞が四コマやテレビ欄まで嘘で塗り固められた害悪の塊であったとしても、せいぜい10億円程度の被害である。