ロシア革命アニメーション

 事情によりかなり報告が遅れてしまったが、少し前に渋谷で『ロシア革命アニメーション 1924-1979/ロシア・アヴァンギャルドからプロパガンダへ』(http://www.uplink.co.jp/x/log/003038.php)を観てきた。まだ上映中なので紹介しておきたい。
A−1 ソビエトのおもちゃ
 貪欲な資本家が、食べ過ぎ・飲み過ぎで動けなくなる。性欲を満たすためか、売春婦を連れてくる。次に心の安寧を得るため、金でカトリックロシア正教の宗教家を一人ずつ連れてくるが、この二人は神学論争に明け暮れる。
 そこへ労働者が現れ、資本家から税金を絞ろうとするが失敗する。そこで農民と合体したら、今度は成功する。
 資本家は痩せて普通の体形に戻る。これで解決と思いきや、赤軍の人々がどんどん巨大化し、元(?)資本家・カトリックの宗教家・ロシア正教の宗教家・売春婦の四人の首に縄をかけ、絞殺する。こうして巨大クリスマスツリーの出来上がり。
 解釈次第では、反ソ作品にも成り得る。
A−2 用心を怠るな
 醜いイギリスの資本家を国債購入でやっつける話。
 プロパガンダで敵をこの様に醜く描き過ぎると、それを盲信した連中は万が一美しい実物に出会った時に警戒出来ないのではあるまいか、と思ってしまった。また容姿が優れない人への差別を助長しかねない。
 勿論あまりに敵を強く美しく書き過ぎると、勝利を確信出来なくなりそうだし、妙なファンとかも出てきそうである。
A−3 ファシストの軍靴に祖国を踏ませるな
 「同士スターリンが勇者を率いる」話。
 豚の顔をした巨人ナチス兵の靴が、まずチェコを踏み、ポーランドを踏み・・・って、その件ではナチスを擁護した方が身のためではないかね?同志スターリン君と愉快な勇者達よ。
A−4 百万長者
 アメリカで大金を持ったブルドッグ上院議員にまでなってしまう話。
 豪邸に飾られている芸術作品に写実的なものが少ないのは、社会主義リアリズムへの賛美か?
A−5 予言者と教訓
 西欧に逃れた白系ロシア人は、謎の巨人資本家に救いを求める。
 資本家はまず干渉戦争を開始するが、労働者がハンマーを振り下ろすと星が飛んでいって全て解決する。
 その後の資本家は反ソ宣伝をしたりヒトラーに変身してソ連に攻め込んだりするが、毎度毎度画像使いまわしのハンマーと星作戦に敗退する。
A−6 狼に気をつけろ
 ドイツの山奥にある中世の城で密かにヒトラーユーゲントが育成されていたという話。
 この中世の城の外観がどことなくクレムリンに似ていると感じたのは、私だけだろうか?
A−7 電化を進めよ
 ロシア中に電線を張り巡らせようというのが前半。橇で村々に電気を運んでいるのはギリシャ神話の神々を思わせる風貌の連中。
 やがては電気の力で天候まで操り始める。そして天界にあって人民のために天候操作の指令をコンピューターに入力する一柱の神・・・。
A−8 射撃場
 アメリカ資本主義の悲喜劇を抽象的に描いている。
 ミッキーやドナルドが堂々と登場しているが、大丈夫なのだろうか?
B−1 惑星間革命
 ナチスロシア正教徒や資本家が火星に逃げ出す。火星に逃げたのなら搾取も出来まいに、赤軍はわざわざ火星まで攻め込む。
 その予算で人民を豊かにするという発想は無いのだろうか?
B−2 レーニンのキノ・プラウダ
 世界各国がソ連を次々に承認している点を強調し、スターリンによる後継を宣伝している。
B−3 勝利に向かって
 五ヶ年計画が成功し続け、外国の資本家達は憤る。
 憤っている連中の中に、一人だけ背が低くて有色人種で近眼で出っ歯の人物がいる。
B−4 映画サーカス
①犬の調教師アドルフが、ムッソリーニ・ホルティ・アントネスクの三匹の犬に骨を奪い合わせる。
②ナポレオンの墓を訪問したアドルフが、棺に飲み込まれてしまう。
③曲芸師アドルフは失敗して松明を火薬樽に落としてしまい、爆死する。
B−5 ツイスター氏
 アメリカ白人のツイスター氏が、人種差別をしていてはソ連で泊まれるホテルが無い事を学ぶ。
 登場する黒人は、現代日本のアニメに出せば偏見に満ちているとして糾弾されかねない容姿をしている。
B−6 株主
 アメリカの労働者の悲劇を描く。
B−7 生かされない教訓
 西側に降伏したナチスの軍人は、待遇の良い刑務所を出所すると西ドイツの首相に就任し、東に攻め込むが敗退する。
B−8 前進せよ、今がその時だ
 ロシア・アヴァンギャルドの詩人であるウラジーミル=マヤコフスキーを再評価する作品。当然ながら社会主義リアリズムとは無縁の、何が何だかよく解らない世界になっている。