イギリスの国益と二人のチャーチル――マールバラの呪い

 藤沢道郎著『物語 イタリアの歴史』(中央公論社・1991)の245ページにて、スペイン継承戦争に関する面白い記述を発見した。
 「戦争の最終段階でフランスが窮地に追い込まれた時、英国が和平に動いたのは、ブルボン、ハプスブルク両陣営のどちらにも決定的な勝利を与えないためだった。このバランス・オブ・パワーの政策を実現するためには、殊勲のチャーチル将軍を汚職スキャンダルに巻き込んで、亡命に追い込むことすら辞さなかった。」との事である。
 チャーチル将軍とは、第二次世界大戦で名を馳せたチャーチル首相の先祖である。
 チャーチル首相と言えば、以前紹介した様に(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20090927/1254030741)、フラーの『制限戦争指導論』では、目先の完全勝利を目指して長期的なイギリスの国益を損なった人物として描かれていた。
 スペイン継承戦争第二次世界大戦も、イギリスの当面の敵が特定の宗教に非寛容な人物であり、当面の味方が東方の巨大勢力であり、イタリアでイギリス側への寝返りが起きた、等の諸点で共通している。
 勢力均衡がもたらす長期的国益のために生贄とされた人物の子孫が、類似の国際情勢下で長期的国益への復讐を遂げたのである。これは、単なる偶然かもしれないし、ある程度意識的な家訓や家風のせいであったかもしれないし、本人も気付かない遺伝のせいであったのかもしれない。いずれにせよ、中々面白い歴史の皮肉である。

物語イタリアの歴史―解体から統一まで (中公新書)

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フラー 制限戦争指導論

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