『マクベス』と戦後日本文化の相性の良さについて

マクベス (新潮文庫)

マクベス (新潮文庫)

 桑原武夫著『文学入門』(岩波書店・1950)の改版(1963)の42ページに、「コミュニケイションが可能であるためには、その成立基盤として作品の生産者と享受者との間に「共通なもの」がなければならない。ところがそれを妨げるものとして、時代、国家、民族、国語、国内の各地の方言、階級、集団、等等、の特殊性がある。たとえば徳川時代の日本人に、もしラシーヌスタンダールを読ませたとしてもインタレストをもち得なかっただろう(シェークスピアの『マクベス』やモリエールの『気で病む男』なら若干のインタレストを起したかもしれないが)。」という記述がある。
 旧版は未見であるが、「はしがき」には改版にあたっての辞句の修正は「少しばかり」との記述があるので、これを信じる限りは、ほぼ同じ内容の記述が西暦1950年以降の日本で出回っていた事になる。
 江戸時代の日本人が『マクベス』を理解出来るだろうと、我々の多くが著者に同意するのは、彼等が知識として下克上の存在を知っており、また下克上は悪でありそれに対しては不幸の報いがあってしかるべきだと考えていた事を、『南総里見八犬伝』等を通じて我々が知っているからである。つまりこの記述は、「日本の戦国時代の下克上の背景と、『マクベス』に描かれた権力闘争の形式は、かなり似ている。」と言っているに等しい。
 よってこれは正に、黒澤明の『蜘蛛巣城』を予言したようなものである。あるいは黒澤の方が『文学入門』の記述から直接または間接に影響を受けて、『蜘蛛巣城』を製作したのかもしれない。
 魔女の予言のせいでマクベスが野心を持ったのか、魔女の予言がマクベスの野心を言い当てたのかも不明だが、どちらにしろ、桑原武夫と魔女が共に侮り難い存在である事に変わりはない。
 ところで、戦後の日本文化の中で、映画の他に世界中に名を馳せた分野としては、漫画とアニメが挙げられる。
 戦後日本映画の第一人者がクロサワであるとするならば、漫画界の第一人者はやはりテヅカであろう。
 その手塚治虫の漫画には、しばしば「間久部緑郎」という名前の人物が登場する。彼には多くの熱狂的なファンがいる。
 また戦後日本を代表するアニメを一つ挙げるのは難しいが、シリーズの寿命の長さと影響力の強さと知名度とを勘案するに、『機動戦士ガンダム』はやはり最有力候補の一つであろう。
 そのガンダムには、「マ・クベ」という名前の人物が登場する。彼にも多くの熱狂的なファンがいる。
 斯様に『マクベス』と戦後日本文化は相性が良いのである(?)。
文学入門 (岩波新書 青版)

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女学者・気で病む男 (新潮文庫)

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南総里見八犬伝〈1〉 (岩波文庫)

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蜘蛛巣城<普及版> [DVD]

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バンパイヤ(1) (手塚治虫漫画全集)

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ガンダム マ・クベの壷Tシャツ ブラック サイズ:M

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