孫文は、古代から近代までの西洋哲学史を研究しつつ、中国の現状に合わせてそれらを咀嚼し、独自の「三民主義」という理論を築いた。死が近づいた1924年には広州の高等師範学校で連続公演を行い、三民主義の理論を体系的に語って後世に残した。
この講演内容の邦訳は複数あるが、私は安藤彦太郎訳の岩波文庫の上下巻で所持している。上巻は第20刷、下巻は第17刷である。
下巻の14ページには、「これによってわかるのは、外国の物質科学には十年ごとに変動があり、十年まえと十年あととでは、たいへんなちがいで、この科学の進みかたはひじょうに早いのに、政治理論のほうは、二千年前にプラトンが書いた『共和国』が、いまでも研究の価値があり大いに役にたっている、ということである。したがって、外国の政治哲学の進歩は物質の進歩ほどは早くなく、かれらの現在の政治思想は、二千年あまり前の思想と根本的には大きな変動がないわけだ。」という部分がある。
ここで思い出されるのは、1929年に書かれたホワイトヘッドの『過程と実存』の第二部第一章第一節の余りに有名な主張である。
松籟社から1984年に出た山本誠作訳の『過程と実在(上)』の66ページから引用する。「ヨーロッパの哲学伝統の最も安全な一般的性格づけは、それがプラトンについての一連の脚注からなっているということである。」
ホワイトヘッドがこの有名な主張を世に問う五年も前に、西洋哲学の本質についての類似した見解を、孫文は発表していた事になる。
この発見について、どうせ誰かが五年以上前に先んじているだろうと思ったが、大雑把に検索しても見当たらなかったので、一応こうして発表してみた。
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