「5:5:3:1.67:1.67」という表現について

 歴史教育において多大なる影響力を持つ山川出版社から2008年に出た『詳説日本史研究 改訂版』の417ページのワシントン海軍軍縮条約の内容に関する記述には、「戦艦・巡洋艦保有量の比率を、米英各5、日本3、仏伊各1.67とする。」という表現がある。
 同年に同社から出た『詳説世界史研究 改訂版』の464ページにも、「会議では米・英・日・仏・イタリアの主力艦の保有トン数の上限と保有比率を定めた海軍軍備制限条約が合意され、比率はそれぞれ5:5:3:1.67:1.67とされ、」という表現がある(太字化は原文ママ)。
 仏・伊を「1.67」とするこうした記述は、中高生の頃に資料集等でも何度か見た記憶がある。その頃からずっと、「15:15:9:5:5」と表現すれば面倒な小数を避けられて良いのにと、今日まで思い続けてきた。
 また仮に日本中心主義を貫きたいのならば、いっそその精神を徹底して「1.67:1.67:1:0.56:0.56」とすれば、各国海軍の対日実力比が一層明瞭に理解出来るという利点があるだろう。
 未成年の頃は単に疑問を感じていただけであったが、最近ではこれを大いに問題視している。
 一般に、自分の地位に自信を持てない者は、自分の真下で一つの区切りを作る傾向がある。盛んに「十傑」と称する十位、「五本の指」と称する五位、「四天王」と称する四位、「双璧」と称する二位は、ほぼ間違いなくこの類である。結果的に自分が属する事にした枠組みの中での最下層になってしまうので、傍目には滑稽極まりないのだが、本人達は大真面目である事が多い。
 この傾向から類推するに、米・英・日を整数で表現し、仏・伊を無礼にも小数混じりで表現するのは、「ビッグスリー」の一角である事を歪んだ形で示そうとする、愚かな強国意識の顕れではあるまいか?
 礼節の観点からも、教育上の観点からも、こういった比率の不自然な表現は、なるべく早く改めた方が良い。
 因みに日本の教科書や資料集では付属品の様に登場する仏・伊だが、ワシントン海軍軍縮条約第七条の原文では、日本より先に登場している。
 以下はウィキソースからの引用である。
"Article VII
The total tonnage for aircraft carriers of each of the Contracting Powers shall not exceed in standard displacement, for the United States 135,000 tons (137,160 metric tons); for the British Empire 135,000 tons (137,160 metric tons); for France 60,000 tons (60,960 metric tons); for Italy 60,000 tons (60,960 metric tons); for Japan 81,000 tons (82,296 metric tons)."(引用元→http://en.wikisource.org/wiki/Washington_Naval_Treaty,_1922#Article_VII
"第七條
各締約國ノ航空母艦合計噸數ハ基準排水量ニ於テ合衆國十三萬五千噸(十三萬七千百六十「メートル」式噸)、英帝國十三萬五千噸(十三萬七千百六十「メートル」式噸)、佛蘭西國六萬噸(六萬九百六十「メートル」式噸)、伊太利國六萬噸(六萬九百六十「メートル」式噸)日本國八萬一千噸(八萬二千二百九十六「メートル」式噸)ヲ超ユルコトヲ得ス"(引用元→http://ja.wikisource.org/wiki/%E6%B5%B7%E8%BB%8D%E8%BB%8D%E5%82%99%E5%88%B6%E9%99%90%E3%83%8B%E9%97%9C%E3%82%B9%E3%83%AB%E6%A2%9D%E7%B4%84

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