唐代に書かれた『法苑珠林』という仏教系の書物を読んでいたところ、第五十五巻で「鉅鹿人張角。自称黄天部師」という表現が飛び込んできた。
張角の自称としては「大賢良師」や「天公将軍」が正史に見られ、演義で「太平道人」というものもあったが、この「黄天部師」は初耳であった。
これは大発見をしたと思い、周辺の文章をしっかり読み込んでみた。
以下に引用を行うが、簡体字のサイトも紹介しておく(→http://gj.zdic.net/archive.php?aid=12352)。
「又中平元年。鉅鹿人張角。自稱黄天部師。有三十六將。皆着黄巾。遠與張魯相應。衆至十萬。焚燒鄴城。漢遣河南尹何進將兵討滅」
(拙訳)「また中平元年には、鉅鹿に本籍のある張角が黄天部師を自称した。三十六人の将軍を抱えた。全員が黄色い頭巾を着用した。遠く張魯と呼応した。勢力は十万人にまで膨らんだ。鄴城を焼打ちにした。漢は河南尹の何進の軍団を派遣して討ち滅ぼした。」
さて、私は本当に大発見をしたのだろうか?念のため『後漢書』を読んでみた。すると霊帝紀にこんな記述を発見した。中央研究院の漢籍電子文献から引用してみる。
「中平元年春二月,鉅鹿人張角自稱「黃天」,其部(師)〔帥〕有三十六(萬)〔方〕,皆著黃巾」
!。・・・。
霊帝紀のこの記述から、「其」の字を削除して区切り方を間違えた上で微修正を施すと、そのまま『法苑珠林』第五十五部の張角に関する記述になることに、私は気付いてしまった。
つまり『法苑珠林』の張角に関する記述は、『後漢書』霊帝紀の記述が引用・複製を重ねる内に書き間違えられた結果として生まれた、悪意無き偽情報だったという可能性が非常に高いと判った。
残念!
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