文化多元主義の究極

A「権力者に価値観を押し付けられない日々は幸せです。そして様々な問題を解決する糸口となる普通選挙制度を享受している事についても、私は嬉しくてたまりません。自由主義と民主主義は人類が勝ち取った究極の価値です。私はこれらを世界中に広め、各地でこれらをより徹底化していく所存です。」
B「それは所詮西欧的価値の押し付けに過ぎない。民主主義が相応しくない文化的風土というものもあるのだ。アジアにはアジアの文化がある事を忘れてもらっては困る。」
A「成程、世界の文化の平均値とアジアの文化には違いがあるから、その差異を上から力尽くで圧殺してはいけないという訳ですね。」
B「その通り!」
A「では仮にそうだとして、東アジアには東アジアの独自性というものがあるでしょう?これも大切にしないといけませんよね?」
B「解ってるじゃないか。」
A「そして日本文化の独自性というものもありますよね。これを東アジアの平均値を上から強制する事で圧殺してはいけませんよね?」
B「まったくもってその通り!あんたとは旨い酒が飲めそうだ。」
A「日本の関東地方には関東地方なりの、他の地域には見られない文化的傾向が見出せますよね。これも大切ですよね?」
B「そうそう。愛国心より愛郷心ってのが、ちょっと前に流行ったよな。」
A「その中から東京都だけを取り出してその文化的傾向を分析すれば、関東全体の文化的傾向との違いが必ずあるでしょうね?」
B「まあそうだな。」
A「その中から二十三区だけを取り出してその文化的傾向を分析すれば、東京都全体の文化的傾向との違いが必ずあるでしょうね?」
B「・・・なんだか嫌な予感がするが、認めざるを得ないな。」
A「その中から一つの区だけを取り出してその文化的傾向を分析すれば、二十三区全体の文化的傾向との違いが必ずあるでしょうね?」
B「まあな。」
A「私の知り合いに舜の子孫と称する「虞」という姓の一家がいて、某区に住んでいるんですが、虞家の家風と区の気風との間には若干のずれがあるんですよ。虞家の伝統を区が圧殺してはいけませんよね?」
B「うむ。家ってのは大事だよな。」
A「虞家では正月に御汁粉を食べるんですけどね、虞家でも禮寧子って子だけは甘いものが大嫌いで、正月には毎年レトルトのカレーを温めて食べてるらしいんですよ。これもまた虞家全体とは別個の、一種の伝統文化になりつつあるんですよ。もしも親がこれを圧殺して、無理やり口の中に餅をねじ込んだら、虐待ですよね?」
B「俺も甘いものは苦手だ・・・。同感せざるを得ない。」
A「という訳で、世界には少なくとも世界人口以上の数の文化が存在する事を認めますね?」
B「認めよう。」
A「それらのかけがえのない諸文化を守るには、どうしたらいいでしょうか?」
B「諸文化の担い手である個々人に、侵害されないだけの一定の基本的権利を与えたらどうかな?あと、権力機関が暴走してその約定を破らないように、諸文化の担い手である個々人に権力者の選定権を与えてみてはどうだろう?」
A「それは良い提案ですね。早速私はその案を世界中に広め、各地でこれらをより徹底化していく所存です。」
B「なんとなく騙された気がするな。自分でも自分が先鋭化したのか丸くなったのか判別出来ぬわい。」