大久保久雄監修・福島鑄郎解題『戦時推薦図書目録』(金沢文圃閣・2011)

 大久保久雄監修・福島鑄郎解題『戦時推薦図書目録』(金沢文圃閣・2011)という本を読んだ。
 「日本出版文化協会」という半官半民の団体が戦時下に存在し、毎月一回ずつ十八回にわたって図書を推薦し続けていたらしく、本書はその第一〜十七回の目録の復刻が中心となっている。
 戦時下の日本の出版文化に触れられる、貴重な資料である。

 目録の内容はというと、対象書籍の基本情報としてまず書名・著者名・外観・著者略歴・大きさ・頁数・価格・出版社名が紹介され、その後に日本出版文化協会の推薦委員が書いた推薦文が付されている。ただし個々の推薦文の文責がどの委員にあるかは書かれていない。
 推薦委員は概してインテリが多く、その中には我妻栄和辻哲郎等の戦後の民主化に一定の功績がある人物も含まれている。
 推薦図書には、いかにも時局に迎合したと思われる軍事系統の書も多数含まれてはいるが、第二回推薦の重久篤太郎著『日本近世英学史』(教育図書株式会社・1941)といったものもある。また敵国の人間であるH・G・キャリスの著作『東南亜細亜における外国投資』(同盟通信社・1942)も第十二回で紹介されている。
 毎回の劈頭の辞には戦争や大東亜共栄圏建設の大義が延々と書かれているのだが、一般人に推薦しても直接的にはその大義の役に立ちそうにない自然科学の書等も多数推薦されている。
 また第八回推薦の高坂正顕著『民族の哲学』(岩波書店・1942)等、推薦委員の著作が堂々と含まれているのも特徴である。
 こういった諸傾向の背後の事情を色々想像しながら読むと、非常に面白い。

日本近世英学史 (1941年)

日本近世英学史 (1941年)

東南亜細亜における外国投資 (1942年)

東南亜細亜における外国投資 (1942年)