狡猾なる似非愚者――架空請求業者とか駄本著者とか

 香川県消費生活センターのホームページ(http://www.pref.kagawa.lg.jp/shohiseikatsu/index.htm)はかなり充実しているので、私はしばしば参考にしている。
 この中に、「架空請求業者一覧」(http://www.pref.kagawa.lg.jp/shohiseikatsu/menu09/newpage58.htm)というページがある。ここで紹介されている架空請求の文面は、どれも異常に愚かしくて笑えるものばかりである。例えば自称「国民財務センター」からの手紙(http://www.pref.kagawa.lg.jp/shohiseikatsu/menu09/newpage58_301.htm)では、「民法136条(民事訴訟法)」とか平気で書いてある。だから私はこのページを発見した当初は、延々と笑っていた。
 しかし最近気付いたのは、「極端に馬鹿な詐欺師」というものはそもそも存在しないという事である。
 そもそも執筆者が「「民法136条(民事訴訟法)」とでも書けば恐れ入る相手が増えるだろう!」と本気で考える人物であれば、「いっそ実在する法律を調べて書き込めば恐れ入る相手がもっと増えるだろう!」という次のステップには簡単に進める筈である。よって、おそらくは意図的に判り易い嘘を書き込んだのであろう。
 こうして私は、架空請求の文面がどれも愚かしいのは、恐れ入る人物を寧ろ減らすためだ」という結論に至ったのである。
 何故敢えて愚者を装ってまで収入源を減らすのか?それは、名文を書いたせいで中途半端に賢い人物までをも一時的に騙して被害を与えてしまうと、民事・刑事・その他の手段により報復される可能性が高まるからである。また名文だと、騙されなかった人の中からも他の誰かが騙される事を心配して何らかの活動を始める人が次々に出現するだろう。騙された事にすら気付かない人、万が一後で気付いてもどうすればいいか判らない人、そうした人々を架空請求業者は厳選したいのである。
 「インテリの旦那様方ぁ、あっしらは架空請求すらまともに出来ない馬鹿でござーい。どうか放っておいて下さいましぃ。なぁに、あっしらに騙される連中なんざほとんどいませんぜ。」という思念が、「民法136条(民事訴訟法)」には込められていたのである。
 これは出版業界における駄本にも存在する構造かもしれない。とことん無茶苦茶な嘘や矛盾の背後には、逆にインテリを批判者集団からも排除しようとする意思があるのではあるまいか?
 当ブログは開設以来多くの駄本を批判してきた(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/archive?word=%2A%5B%BD%F1%C9%BE%5D)。友人の中には、「もっと真面目な本に取り組んだ方が良いんじゃないかなぁ?」と忠告してくれる人もいる。こういう「賢い」友人たちには、駄本に騙される大衆という存在はそもそも眼中に無いのだろう。当然ながら騙された人々が徒党を組んで自分の研究室を破壊しに来るという事態も想像出来ないのであろう。遠く異朝をとぶらって紅衛兵・突撃隊・マッカーシズム等の例を出すまでもなく、近く本朝をうかがっても実例はあるのだが・・・(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20100123/1264200531)。

平家物語 (岩波文庫  全4冊セット)

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