第六(?)回「真の近現代史観」懸賞論文の最優秀藤誠志賞論文を読んだ。

 今年もアパグループ「真の近現代史観」懸賞論文の受賞論文が発表された。
 なお今回は第六回の筈であるが、「最優秀藤誠志賞」を受賞した松原仁氏の論文を紹介するページ(http://www.apa.co.jp/book_ronbun/vol6/japan.html)では、何故か「アパグループ第5回「真の近現代史観」懸賞論文 受賞者発表」となっていた。おそらく単なるミスであり、やがて修正されると思う。一応ウェブ魚拓もとっておいたので、参考までに貼っておく(http://megalodon.jp/2013-1102-2335-49/www.apa.co.jp/book_ronbun/vol6/japan.html)。
 運営側の不手際はこれだけではなかった。前掲松原論文では、幾つかの段落の頭において、本来在るべき一字分の空白が無かった。この松原論文は長文を引用する際には、前後を一行ずつ空白にして文頭を一字空けない事で引用箇所である事を表明する形式を採用しているので、この不手際のもたらす害悪が一層強まっていると言える。
 以下、松原論文への感想を書く。
 主張は目新しいものではなく、自虐史観を払拭しつつ情報戦を勝ち抜けという保守派の多くが既に抱いている価値観を表明しただけのものになっている。
 結論部分が古色蒼然である場合には、それを支える論拠の部分に余程新しい事を書くべきなのであるが、残念ながら論拠の部分も大したものではない。
 全体を通して見られる欠点の共通項は「引用」である。とにかく引用が下手であり、これが論文全体の価値を大きく下げている。以下、引用関連の問題点を列挙しておく。
 第二章では、「詩人杜甫の五言律詩に「國破山河在」(国破れて山河あり)という言葉があるが、」とある。杜甫は数多くの有名な作品を残した人物であるので、ここでは「春望」という題名を直接書くべきであった。
 第三章では、東京裁判の違法性を批判するための権威として「法学博士鹿島守之助氏は戦後、 『世界大戦の原因の研究』と言う書物の第四版への序文の中で、極めて鋭く東京裁判の違法性を指摘した。」という話を持ってきている。だが本当に東京裁判の違法性に関する主張を権威付けたいのであれば、第一次世界大戦の原因を研究した書物の序文よりも、それを専門的に研究した書物の本文部分から引用すべきである。
 同じく第三章では、ベトナムに行った際に会った「ある女性教授」が登場し、日本の国会議員による靖国神社参拝を擁護している。これは「中国は非難しているが、他のアジア諸国は違うぞ!」と印象付けたかったのであろうが、偶然出会った一個人の見解をその姓名すら明らかにせずに引用した所で、何の権威にもならないであろう。
 第四章で登場する「ある国の外交官」の見解の引用も、同様の理由から無力である。
(関連記事)
第一回→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20081107/1226009194
第二回→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20091122/1258875769
第三回→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20101229/1293610697
第四回→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120429/1335695589
第五回→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20121025/1351164525

杜甫詩選 (岩波文庫)

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