だいかいじゅうゲムロンヲド(挿絵・友人某)


 だいかいじゅうゲムロンヲドが、突如武蔵国に出現しました。住民達は大慌てです。
「大変だ。だいかいじゅうゲムロンヲドが今まさにこうしてここに現れたからには、何らかの実効性のある対策を打たねば町は火の海になってしまう!」
「愚僧に名案があるぞ。武士ぢゃ、武士に頼るんぢゃ。連中は概して言えば平均的な人間より強いぞ。今頼らずして、何時頼るんぢゃ!」
 やがて三好好三という武士が連れてこられました。
「土民の皆さん、落ち着いて下さい。武者人形一体ですら家一軒から魔を祓うだけの霊力がある事ぐらいは知っているでしょう。まして私は武士としての富力を最大限に活用して密かに九百九十九体の武者人形を収集していました。だいかいじゅうゲムロンヲド如き、怖れるに足りません。」
「それがそのぅ、言い難いのですが、この町には家が千軒もあるのです。」
 三好好三は落ち着き払って、家を一軒焼き払いました。臨機応変の発想力に、住民達は舌を巻きました。
 ところがです。だいかいじゅうゲムロンヲドはこれに対抗して家を建て始めました。
「ええい、ならばもっと焼き払い続けるまでです!」
「まだそんな奥の手があったとは!三好様の知略、底が知れぬ・・・。」
 住民達の必死の放火により、ついにだいかいじゅうゲムロンヲドは建設に飽きてしまい、何処かへ去りました。
 町は完全に焦土と化しましたが、住民達は誰も後悔しませんでした。住民の半数は既に焼け死んでいたために当然ながら後悔という感情を抱いておらず、残りの半数は家屋を失った代わりに田畑を含む土地の所有面積が平均して二倍になったからです。
 ただ一人だけ悔やんだのが三好好三です。彼が知恵を振り絞って助けた住民達は、だいかいじゅうゲムロンヲドの脅威が去った途端に彼を再び敬遠する様になっていったのです。
「結局一番したたかなのは、あの土民の皆さんだったのですね・・・。」
 三好好三は人形達に寂しげにそう呟いたと言われています。