衆議院議員総選挙が生んだ二頭の亢龍

 『周易』の「乾」の卦に、「亢龍有悔」という句がある。分不相応に台頭し過ぎてしまう事を戒めているとする解釈が多い。
 例えば、もしも外国人力士達がいなければ、魁皇横綱に祭り上げられた挙句、早々と引退させられていただろう。「亢龍」の一歩手前の「飛流」であり続けたからこそ、数多くの新記録を達成出来たのである。
 また小説『陋巷に在り』では、孔子のスピード出世の原因を、旧勢力が孔子から実権を奪うための謀略とする立場が採られていた。孔子の出世については、事実にしては活躍の記録が少な過ぎ、架空にしては教祖の経歴の捏造についての儒家批判が無さ過ぎるので、中々の卓見であると思ったものである。
 ここ最近、衆院選は亢龍を生む場となっている。
 第44回総選挙では、自由民主党は予想以上に勝ち過ぎてしまった。この時に杉村太蔵氏の様な連中も当選してしまった事こそ、その後の凋落の最大の要因であったと思われる。
 もしも堀江貴文氏まで当選していたら、もっと酷い状態になっていたに違いない。自民党亀井静香氏によって救われたと言える。
 第45回総選挙では、数ヶ月前に身内を庇うために「国策捜査」と口走った人物が総理大臣に祭り上げられてしまった。これにより、検察は国策捜査でなかった事を証明するためにも一歩も退かなくなってしまったのである。
 まるで総体としての選挙民が「官打ち」という一つの底意地の悪い意志を持っているかの様にすら見える。

易経〈上〉 (岩波文庫)

易経〈上〉 (岩波文庫)

陋巷に在り〈13〉魯の巻 (新潮文庫)

陋巷に在り〈13〉魯の巻 (新潮文庫)