『忘却の旋律』全話視聴計画(第9〜11話)

第9話 猿人湾
 舞台は一気に秋となる。オーディオコメンタリーによれば、一気に四ヶ月程経過した模様。
 序盤、ボッカに同情的な人物が、自分の子供にはメロスの戦士について「世の中の負け組だ。そういう奴は取り敢えず自分の事を戦士とか名乗って、格好つけてるだけなんだ。」と教えている。現実社会の「国士」や「革命家」についても、それにしかなれなかったために消去法的にそれになった人物が多数混じっているのは確かである。
 余談だが、「デモシカ先生」の意味が「デモしかしない先生」から「教師にでもなるしかなかった先生」へとスムーズに移行したのは、決して偶然ではないと私は思っている。
 彼は、年老いたメロスの戦士がいないという事も言っている。おそらく皆、野垂れ死ぬか、転向するのであろう。
 モンスターユニオンのエージェントである「ハッスルもんきー」こと「橋本マサル」の表向きの地位は工場長である。部下の名刺から判断するに、猿回産業株式会社の第三工場の長と思われる。彼の工場ではロボット怪獣が生産されているのだが、納品は度々「武装演劇集団チェンタウロ」に襲撃されて破壊されている。
 納品を積んだトラックが破壊される場面は二度あるのだが、不思議な事にトラックのナンバープレートは二台とも「638」になっている。これは何を意味するのだろうか?
 チェンタウロのメンバーは、「ニック」・「ヒカリ」・「クロン」という三人の青年と「ココ」という少女の四人である。オーディオコメンタリーによると、ココは「呱呱」と書くらしい。
 マサルはチェンタウロ対策のため、ボッカを警備部に終身雇用しようとする。ここは、メロスの戦士即ち社会運動の闘士という立場と終身雇用労働者という立場との両立は果たして可能なのかという、重要な問題を提起している場面である。
 またこの時、マサルは小夜子に一目惚れしてしまう。
 マサルは過去に二度離婚歴があり、二人の元妻は既に「猿人」と呼ばれる存在になってしまっている。猿人は、猿の面を付けた人間の姿をしており、この後も何度も物語に登場して作品のメッセージを読み解く重要な鍵となる。
 ボッカはチェンタウロと一度激しく戦い、弓まで折られるが、後に工場の実態を知り和解する。そして彼等の本拠地でツナギ爺さんと再会する。因みにツナギ爺さんの本名が「武蔵野三郎」である事も判明する。
第10話 ユニコーン・シリーズ
 今回は色々と重要な設定が語られる。
 20世紀戦争で人類側の切り札だった宇宙要塞「ミトラノーム」は、三十三隻の宇宙船が合体して作られるものである。モンスターを一掃するための要塞であり、アイバーマシンが飛べるのもこの要塞の御陰らしい。三十三隻の内三十一隻は既に衛星軌道上にあるが、残りの二隻の内、「ENGINE1」はこの猿人湾でマサルにプラントとして利用されていて、「ENGINE2」は猿人湾の海底に沈んでいるとの事。
 心を持った禁断のアイバーマシンであるユニコーンシリーズは、モンスター以上に危険な存在になる可能性があったので開発が中止されたが、結局ENGINE2の中で何者かが造ってしまったらしい。ニック・ヒカリ・クロンもユニコーンシリーズなので、スカイブルーと同じく人の姿とバイクの姿を往来出来る。そしてボッカのアイバーマシンはペガサスシリーズの試作一号機。
 新モンスター「たまころがし」もマサルの上司として登場する。オーディオコメンタリーによると本名は「ヘカテ」。ボーリングが趣味であり、使用する球はどうやらマサルが過去に苦しめた人間たちの成れの果てと思われる。
 前回から工場に残っていた小夜子は、そのまま人質になってしまう。マサルは今度こそ永遠に一緒に暮らせる女性と出会えたと喜んでいるのだが、これは勿論遠音が辿り着いた永遠観との対比である。
 ボッカは小夜子を助けに行こうとするが、奇襲計画の邪魔になるとして一度はニックに反対される(後に許可される)。最大多数の最大幸福という政治の方針に異議申し立てをするために始まったゲリラ運動が、規模が拡大するにつれてやはり集団内部での最大多数の最大幸福のために構成員の一部を見殺しにせざるを得ないという矛盾は、『太陽の牙ダグラム』第50話「戦う者の掟」でも告発されていた。
 そんなニックの方針をボッカは「鬼」と表現する。これは奇しくもスカイブルーが鼠講谷で呼ばれていた名と同じである。「言葉を話し人格もあるが感情には流されない機械は、果たして人間なのか?」という第6話以来の問いが、ここでも密かに繰り返されていると言えよう。
 ボッカは小夜子に嫌われていると思い込んでいたのだが、ココにそれは思い込みであると諭される。
 マサルの搭乗するロボット怪獣「ゴ・キキ」との戦いで、ココがメロスの戦士である事が判明する。また前回ヒカリとの戦いで弓を失ったボッカは、今回からアイバーマシンのハンドルを弓にする。
第11話 君がまだ知らない歌
 小夜子は黒船に嫌われていると思い込んでいたのだが、ボッカにそれは思い込みであると諭される。これは前回のボッカの思い込みとの対比である。今回は全体的に恋愛に比重が置かれた話である。
 本来人類の切り札だったミトラノームを、モンスターユニオンは自分達の道具として使おうとしている。そしてENGINE1のミトラノームへのアクセステストは、正に今夜行われる予定であった。ボッカ達に襲撃された上に上司のたまころがしが既に帰ったと知ったマサルは弱気になるが、先輩格のエージェント「グローバルやまねこ」に精神的な圧力を加えられ、テストの延期を諦める。
 因みにDVD同封の冊子によると、グローバルやまねこの本名は「大河旭虎(おおかわあさひこ)」。
 ミトラノームによるモンスター一掃作戦を立案したのは、若き日のツナギ爺さんの上司にして恋愛対象でもある「チーフ・ヴイ」であった。そして一掃作戦を土壇場で中止したのも彼女であった。中止した理由は猿人の存在を知った事にある。これが何を意味するのかについては、後々徐々に明らかになる。
 ENGINE1の動力室では、人間には耐えられない過酷な労働を猿の面を付けた人間である猿人達が行っていた。「え〜んじ〜ん!」と唱えながら、人力でタービンを回していたのである。それがENGINE1の動力だったのである。
 人間だった筈のマサルの妻が猿人に「成った」事から、猿人とは人間が変化したものであるという印象が強かったのだが、マサルは猿人を「人間に成りきれなかったもの、あるいはこれから人間になるかもしれないもの」と定義する。猿人はオーディオコメンタリーでも「人間以前」の存在とされているので、これが公式設定なのであろう。これも今後の謎を解く鍵となっていく。
 マサルは量産猿型ロボット「サイバーエンジン」達にボッカ一行を襲わせると、もう安心して船外に逃げてしまう。この連中は鳴弦の技が効かないので、確かにそれなりに強かったのであるが、結局ボッカ達は圧勝する。
 そしてツナギ爺さんにより自爆コードが入力されたENGINE1は高度九千メートルで自爆する。船外にいたゴ・キキは落下しておそらく崩壊。
 ツナギ爺さんは自爆寸前に見たヴイからのメッセージに強く影響され、ヴイの幻を追って炎の中に自らの身を投じる。結局彼の一生は恋愛だったのである。
 小夜子は今回の危機を乗り越えてボッカと相思相愛になりかけるが、悲しい事に最後の場面で彼女が身に付けている鎖は黒船が居るであろう海の彼方を指し示す。この鎖は、小夜子が好きな人が居る方向を指し示す鎖なのである。

太陽の牙ダグラム vol.10 [DVD]

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