第12話 迷宮島
小夜子の腕の鎖の導きにより、黒船がいると思われる島にボッカと小夜子は向かう。ここでは一ヶ月に一度島と往復する用事のある網元に大金を払う事で、彼の「うしとら丸」に便乗する。
島から見える月は巨大である。これは網元によると、本来この島が太古に沈んだ島であるから当時の大きさの月が見えるためとの事である。こんな訳の解らない理由を平然と述べる網元、怪し過ぎる。当然ボッカ達も彼を怪しむ。
島の外観には施設らしいものが何も無いのだが、黒船の愛機であるジャガーの太陽号が置き去りにされたままかなり古びているのを発見し、二人は黒船の存在を確信する。更にこの太陽号の導きで、潮の干満によって見え隠れする秘密の洞窟も発見する。
洞窟の中には、この島の支配者であるホルに因んで、ギリシア神話におけるミノタウロスが生まれるまでの話を描いた壁画がある。ただし事の発端であるポセイドンの怒り等は省略されているので、王妃のエゴとダイダロスの技術がより鮮明に浮き上がっている。「モンスターは人間のエゴと技術によって生み出されたもの」という主張が込められているのであろう。
二人は奥で網元とグローバルやまねこが会話しているのを発見する。網元の本当の用事は、ホルへの生贄を運ぶ事だったのである。
ここで「うしとら丸」の意味が判明する。牛型モンスターのホルと虎型エージェントのグローバルやまねこのための船だったという訳だ。
グローバルやまねこは虎型ロボット怪獣「ミ・ギャオ」に乗ってボッカに挑む。アイバーマシンの機能を停止させる新兵器「グローバルノイズキャノン」によって善戦するかに見えたが、ボッカのアイバーマシン「エランヴィタール」は一瞬停止するも直ぐに再起動したので、あっけなくボッカは勝利する。
怒ったボッカは生贄を運び続けてきた網元にも矢を向ける。網元は怯えつつも、度胸を据えて正々堂々以下の様に反論する。
「仕方ないだろ。あんた、本物のメロスの戦士だったんだな。メロスの戦士が戦う所、さっき初めて見せて貰ったよ。凄いね、凄い、凄いと思ったよ。あんたは強い。だけどな、そんな強いメロスの戦士がいても、あの二十世紀戦争で俺達人間は負けたんだ。奴等モンスターに負けたんだ。そうとも、俺は月に一度生贄の子供をここに運んでいるさ。けどな、仕方ないだろ。こうしないともう俺達は生きていけない。俺達人間はもう負けたんだ。負けたんだ!」
今までモンスターの支配を受け入れている人物は、モンスターユニオンのエージェントを除けば、自分なりの見識を持たない「猿人」的人物が多かったのだが、これは非常に明快な主張なので、かなり深く支配と被支配の関係を考えさせられる。
生贄を救うため、黒船に再会するため、そしてモンスターを倒すために、ボッカは洞窟の奥にある扉からホルの本拠地である迷宮に入っていこうとする。この迷宮は中に入るだけでモンスターの実態を見たのと同じ効果があるため、普通の人間は人形になってしまう。だから小夜子はボッカと一緒には行けない。網元も当然逃げ出す。
小夜子は最初はボッカを止めようとするが、結局は鎖を渡して見送る。この鎖が「アリアドネの糸」を下敷きにしている事は明らかである。それ故に、「この島の問題を首尾良く解決したとしても、小夜子が結局はやがてボッカに置き去りにされてしまうのではないか?」という不安を視聴者に抱かせる。
第13話 黒船
洞窟の中でボッカは、生贄の「ソロ」と出会い、そしてホルと戦い続けていた黒船とも再会する。何故か人形にならないソロに、黒船は軽い疑いを持つ。
黒船の口から、二十世紀戦争の話が語られる。モンスターを見ると人間は石・人形・動物のどれかになってしまうので、当時のモンスターはその姿を積極的に人に見せていたらしい。しかしその戦略だとメロスの戦士を増やしてしまう事に気付き、今では寧ろ隠れているらしい。メロスの戦士に覚醒する人間は数万人か数十万人に一人だが、一人のメロスの力でもモンスターを全滅し得るのである。
現実世界でも、二十世紀までは先進国でも数多くの見え易い悲劇があり、数多くの革命家が輩出されていた。しかし社会問題の多くは「解決」され、社会の矛盾は目を凝らさなければ見えてこない。こうした変化に比例して、革命家も激減している。黒船の語りは、おそらくこうした事を言っているのだろう。
ホルが迷宮の中では不死身である事、そして迷宮の中で誰かが戦い続けていないと迷宮の外に出てしまう事も、黒船から語られる。黒船は数十年間ここで戦っているらしい。
小夜子がかつてこの迷宮島に捧げられた生贄であり、それを黒船が助け、以来黒船を慕っているという設定も、明らかになる。小夜子を捧げたのは彼女の両親であり、彼女の兄はモンスターユニオンのエージェントであるとの事である。
黒船はボッカに、ソロを連れて逃げるよう言い、自分は別の道を行く。
その後、ソロは黒船への疑惑を表明する。ホルも突如ボッカの前に現れ、ソロを攫いがてら、やはり黒船への疑惑をボッカに植え付けようとする。
暗い迷宮の中で襲いかかる負の感情に立ち向かうというのは、ありがちなイニシエーションである。
またこの迷宮の中で、ボッカは自分がメロスの戦士になるまでの鍵となる人物であったケイやエルとも再会する。自己の過去と向き合うのも、迷宮のイニシエーションの特徴である。
こうした迷宮のイニシエーションの特徴については、和泉雅人著『迷宮学入門』(講談社・2000)に詳しい。この書籍を事前に読んでおくと、この迷宮島編の解釈が一気に深くなる。
ボッカは彼にとっての最深部らしき場所でもう一度第2話におけるエルと小夜子の二者択一をやり直し、そこから180°の転回を行い、地上を目指す。この流れは、次回の話の題名にも繋がっていく。
第14話 出口という名の入口
ホルに食われたケイが、ホルの体内でもある迷宮の中で永遠に反芻され続け、苦しめられかつ辱められている事が判明する。
顕在的な社会問題により死んだ者は、死後も半永久的に報道や出版等を通じて辱められている。これはおそらくそれを象徴しているのだろう。
また「世の中には死人が数多くいるのに、この戦士は何故この問題の犠牲者だけ問題視するのか?」という視聴者の多くが抱くであろう疑問に、一応分かり易い回答を提示しているとも言える。この手法は、『ドラゴンボール』でも魔族に殺された者は天国にも地獄にも行けずに苦しみ続けるという設定として使われていた。
黒船は、ボッカの伸び代の大きさに期待し、やがてはモンスターキングを倒すようボッカに言い残し、迷宮の奥へと姿を消す。ボッカは小夜子の鎖の導きで脱出する。
迷宮がイニシエーションのための世界の縮図であるなら、世界もまた本来迷宮的なものである。終盤における黒船とホルの会話は、それを示している。これは第1話で短い言葉で既に行われた会話を、より詳しくしたものとも言える。
「御前は俺がこの矢で既に殺した筈だ。迷宮の中でしか生きられない筈のお前こそ、どうやって外へ出た?」
「フフフ、私は気付いたのさ。迷宮の外とは、何なのかにね。教えてやろう、迷宮の外にあるものそれは、本物の迷宮だ。」
この話の最後には、モンスターキングの住むモンスターの本拠地も描かれる。
ここで「たまころがし」・「ホル」・「赤い髪の少女」の本名が、それぞれ「ヘカテ」・「ミノタウロス」・「メデューサ」である事が判明する。
笛を吹く少年型モンスター「パン」と巨人型モンスター「タロス」も新登場する。
「チャイルドどらごん」がサイレント作戦の内容を報告してきたという設定、モンスターユニオンをモンスターキングがどうするかはチャイルドどらごんの仕事次第であるという設定とが、アルコトナイコトインコの口を通じて語られる。軽く語られているが、これは今後の物語を読み解くための非常に重要な伏線である。
そして何より、本物の忘却の旋律が捕えられている旋律劇場がこの本拠地の奥にある事と、迷宮島で生贄の振りをしていたソロこそがモンスターキングである事が、判明する。
迷宮が入口から入って中心に行き、そこから180°転回して入り口だった出口に戻ってくるためのイニシエーションのための施設であるのと同様に、この迷宮島編も物語の中心にある転回点である。前半の総括が行われると同時に、後半に向けた重要な情報が語られている。迷宮の入り口は迷宮の出口でもあり、迷宮の出口は「迷宮の外」という名の本物の迷宮への入り口でもある。
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