『忘却の旋律』全話視聴計画(第18〜20話)

第18話 東京駅
 どこからどう見ても東京駅らしき駅が舞台。ただしこの平行世界ではこの駅は「中央停車場駅」と呼ばれている。
 ボッカ・小夜子は、支援組織からの情報を得るため、中央停車場駅の敷地内で二週間もホームレス生活をする。それだけ苦労して手に入った情報は「マホロバを探せ。」の一言。かなり陰鬱な展開である。
 そんな時に、幸せな結婚式を見たり懐妊している私立探偵と会話したりで、小夜子は小市民的幸福が少し羨ましくなる。
 マホロバをどう探すか悩んでいたボッカは、安藤ヨウスイという若者に出会う。本人の弁によると、メロスの戦士に憧れた事もあったが学校を辞める程の理由は見つからなかった人物らしい。ヨウスイの語りには妙に羊の話題が多いので、視聴者の多くはここで彼は羊型ロボット怪獣に乗るエージェントではないかという疑いを持ったと思われる。
 彼はボッカとの会話で、「今、この私は夢の中に居て、本当の自分は現実の世界で死んでいる。この中央停車場も、その現実の世界ではもっと他の名前で呼ばれている。そんな夢を見た。」等の、意味不明な詩の様な発言を続ける。
 彼の口から、多くのメロスの戦士がここに来て駄目になり、環状線を永遠に回り続けているという情報が漏れる。これが嘘でない証拠に、遠音が猿人達と一緒に山手線らしき列車に乗り続けている場面も描かれる。彼等は皆、林檎を大切に持っている。
 私立探偵を通じて月之森時子から届けられた大金で、ボッカ達は高級ホテルに泊まる事が出来た。ダブルベッドが置かれているのを見て、二人は否応無く性を意識し、更にはその結果としての子供を意識する。
 部屋に置いてあるテレビの中では、総理大臣が安全政策について今まで通りの方針を堅持すると表明し、「戦争を望む国など有ってはならないし、無いと信じたいね。これから先の時代に生まれる子供達の事を考えなきゃ。」と綺麗事を言っている。それを見た小夜子は、「こんな時代に子供なんて産んだら、なんか可哀想な気がするね。」と言う。
 その後、二人は今後の人生を巡って激しく話し合うのだが、そこへ総理を拉致したチェンタウロのクロンが入ってきて、ほとんど一方的にボッカ達の部屋を臨時の拠点に決めてしまう。実に無粋で身勝手で人間味の無い男である。前半におけるヨウスイの発言の中に「電気羊」という単語があった事もあって、ここで「人語を話す機械は人間か?」という第6話以来の問いが再燃したと言える。
 クロンの口から、サイレント作戦の概要が判明する。モンスターユニオンは猿人湾に沈んでいたENGINE2のサルベージを秘密裏に成功させ、宇宙に浮かぶミトラノームの破壊を目論んでいるらしい。
 一方「マホロバ」もまたミトラノームのパーツの一つであり、中央停車場付近に隠されているらしいので、チェンタウロは秘密を知る総理を拘束したとの事である。
第19話 二十世紀戦争
 モンスターユニオンとの会談予定をニッキに告発された総理は、「あのグラスファイバー製防弾ガラスを素手で叩き割った君こそ、モンスターじゃないのか?」と言い返す。ここでも、「人間」の定義をめぐる問題は続いている。
 サイレント作戦を阻止するというニッキの計画に対し、総理は「無駄な事を。世界はもう死んでいる。ここは既に死んだ世界なんだ。君達はまだ若い。だから理想とか一つの方法論で世界を語れると思い込んでいるんだ。モンスターの存在を無視して、今どうやってこの国の平和を維持するというのかね?」と言う。この「死んだ世界」という言い回しによる革命家への説得は、おそらくフランシス=フクヤマの『歴史の終わり』が意識されているのだろう。リベラルな民主政治こそ人類の歴史の到達点であり、二十世紀戦争後の社会運動家がなすべき事は、体制の大枠の変革ではなく、体制内でそれを少しでも良くする活動だという訳だ。総理はモンスターユニオンとの交渉を通じて犠牲者を最小限にする活動を行っているらしい。
 チェンタウロは、総理との会話からマホロバが付近にある事を確信して直ぐに探しに行ってしまう。残されたボッカと小夜子に、総理は二十世紀戦争の思い出を語る。
 回想シーンにおいて、総理が通っていた学校では、モンスターの襲撃によって学生が全員石になってしまう。ここで面白いのは、窓の外を見ていない学生も石になっているというのに、総理だけが無事だった事である。この事から、総理もまた実はメロスとしての能力を持っている可能性が高い事が判る。
 総理の話が「人間は彼等モンスターには絶対に勝てない。」で一区切りすると、それを悲しそうに外で盗み聞きしていたソロが、「勝てない訳じゃない。勝ってはいけなかったんだ。あの二十世紀戦争は。」と呟く。そして今度はソロの回想が始まる。
 メロスの戦士だったソロは、かつてモンスターキングS二世と対峙した。「何故モンスター達は、人々を石に変える?」とソロが聞くと、「彼等は元々石だったんだ。ただ世界がそれに気付いただけ。」と二世は答える。「何故モンスターなんて生まれた?奴等は一体どこから来た?」とソロが聞くと、「どこから来たのでもない。最初から居たんだ。石が元々石でしかなかった様に、彼等は最初からこの星に居た。そして人間が人間社会を作った時、モンスターと分類されたに過ぎない。」と二世は答える。
 この直後、ソロは二世を倒すが、そのせいでモンスターは暴走し、二十世紀戦争が始まってしまった。忘却の旋律を解放してモンスターを全滅させる事も容易かったが、それをすると世界中の人間が猿人になってしまうと、忘却の旋律自身から言われる。そこでソロは仕方が無くモンスターキングソロモン三世に自身が就任し、モンスターの手綱を取り始めたのである。
 これで大体、物語の解釈に必要な設定は出揃ったと言える。社会問題(モンスター)に挑む革命家(メロスの戦士)だが、社会問題の総元締(モンスターキング)を打倒するだけでは世界は却って混乱するだけである。だからその後は自分が権力を握る必要に迫られる。社会問題の全てを解決する事は可能だが、それをすると人類の全ては自分でものを考えない猿人になってしまい、世界はハクスリーの『すばらしい新世界』状態になる。
 後半、ヨウスイがモンスターユニオンのエージェント「エレクトリックしーぷ」である事が判明する。
 チャイルドどらごんはENGINE2を「子供オオトカゲ」と改称し、サイレント作戦を開始する。
 部下の「ディスカウントうりぼう」は、「でもどうして総理をわざわざマホロバのある中央停車場に呼び出したんだ?」と聞く。チャイルドどらごんは笑って答えないが、これはやがて回収される伏線である。
 その後、総理は駆けつけたSPに救出されるが、その直前の会話から、彼の誘拐された娘こそがココである事が判明する。
 ここでソロは、何故かSPを操って総理を撃たせる。ユニオンに逆らおうとしない総理を彼が何故殺したのかは、後々明らかになる。
第20話 太陽が君を呼んでいる
 死を目前にし、また誘拐された実の娘がメロスの戦士になっていた事をしった総理は、ようやくマホロバの秘密を吐く。マホロバは地下にあり、そのエネルギーはロボット怪獣のビットである電気羊が食べているので、ロボット怪獣を倒せばすぐ動き出す。しかし二度と大地には戻って来ない船でもあるとの事である。
 またヒカリの口から、アイバーマシンで宇宙から地球に戻る際には、平行世界に行ってしまう危険性があるとの話が語られる。
 スカイブルーを大切にする余り、第8話で一度は掴んだ「永遠」の意味を見失って環状線を回り続けていた遠音だったが、再び絵市に救われる。そこで使われた論法は、林檎は食べても腐らせても無くなるのだから、食べた方が良いというもの。これはココの好きな歌にある「生きる阿呆に死ぬ阿呆、同じ阿呆なら生きなきゃ損損。」という一節に対応していると思われる。
 ここで不思議なのが、遠音が環状線電車から出て、そのまま向きを変えずにスカイブルーと再会した場面にある路線図である。これは環状線の路線図には見えない。これが単なる作画ミスなのか、それとも遠音の「永遠」の定義に対する心境が変化したことを象徴的に描いているのかは、私には判断出来なかった。

 もしも普通の路線が環状線化した事が偽の永遠性を造る一手段であったのだとしたら、これは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』へのオマージュであると思われる。
 ここでロボット怪獣を隠し続ければマホロバはサイレント作戦に間に合わなかったのかもしれないのに、チャイルドどらごんは敢えてヨウスイに出撃を命じる。ヨウスイはロボット怪獣「メ・エエ」に乗って戦うが、撃破される。
 正式な発表はまだなされていないが、この時点で既に視聴者の多くは見抜いていたであろう。全ては罠である。わざわざモンスターユニオンが総理をマホロバ付近に呼んだのは、潜在的抵抗勢力である総理がチェンタウロに拘束されればマホロバの場所と秘密を白状すると思ったからであろう。だが中々寝返らないので、ソロは命を奪ってまで総理をメロスの側に寝返らせたのである。そしてメロスの戦士を宇宙に誘き寄せるため、ヨウスイを無理に出撃させてメ・エエを自然な形で破壊し、マホロバのエネルギーを回復させたのである。
 革命家になれたかもしれないのに敢えて組織の歯車になった二人の人物の末路が、組織の大規模な謀略のための捨て石だったというのは、中々考えさせられる展開である。
 マホロバに乗ってボッカ達が宇宙に旅立つ際、小夜子は地上に置き去りにされる。第12話でアリアドネに擬えられた以上、この展開は当然である。

歴史の終わり〈上〉歴史の「終点」に立つ最後の人間

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すばらしい新世界 (中公文庫)

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