『忘却の旋律』全話視聴計画(第15〜17話)

第15話 幸運河
 グローバルやまねこの敗北に乗じてほとんど横領の形で彼に代わって水門塔の支配者になった「ラッキーさらぶれっど」こと鹿川秀馬が登場する。支配者の交代を誇示するためか、「とらうま丸」なる船を彼は運用している。
 秀馬は今までのエージェントと異なり、マスコミに着目される程大量に生贄の子供達を攫う。しかも旅行者の子供ばかりを。これは、メロスの戦士を誘き寄せて倒す事で功績を挙げようとする計画であった。
 またこういう方針の敵の登場には、別行動をしていたボッカ・遠音・ココの再結集の不自然性を除去するという物語作成上の効果もある。
 秀馬の自信の背景には、グローバルやまねこが残していったグローバルノイズキャノンと、いざとなったら敵も人質も自分も部下も巻き添えにして水門塔を爆破するという覚悟とがあった。
 秀馬の言動は奇矯であり、姓名からも「馬鹿」のイメージが付き纏っているのだが、自分の平気で自爆出来る破壊的な人格を逆手に取っている点に着目すると、かなり優秀である。本来「鉄鎖の他に失う何ものをも持たない」というのは革命家の側の強みである。支配者の一員でありながらそれを強みにしてしまうというのは、並大抵の人物ではない。
 第17話で判明する事だが、この秀馬の破壊的人格の更に背後には、「世界一の幸運児である自分は、運だけで成り上がれたので努力はしなかった」という独特の自己認識がある。積み上げてきたが故にそれが惜しくなるサンクコストを持たないのである。
 秀馬のこの自己認識は確かに狂っている。しかし世の中には、偶然高い知能を持って生まれ、偶然才能を伸ばせる環境が与えられたというのに、自分の努力だけで成り上がったと思い込んでいる自称「努力家」という、もう一つの極の側の狂気を帯びた連中が山程いる。それに比べれば、全てを運に還元する態度の方が好感が持てるし、哲学的にも優れているだろう。
 さて、秀馬のこの方針はそれなりに成功を収め、スカイブルーに打撃を与え、遠音を捕らえる事に成功する。
 弱ったまま河に落ちてそのまま下流に流れてきたスカイブルーを、ボッカ・小夜子は助ける。
 しかし秀馬の度重なる規律違反を糺しに来た新たなエージェント「フライングばにー」が偶然ボッカ達を発見し、空から爆撃を仕掛けてくる。因みに脚本集によると彼女の本名は「翔野美兎(しょうのみと)」。
 ボッカは苦戦の末にフライングばにーを撃退する。苦戦した理由は、ボッカのアイバーマシン「エランヴィタール」が飛べないから。エランヴィタールが飛べそうになったのは戦闘中だけであり、ボッカは戦闘中の実験は危険であるとして飛翔を避けてきたらしい。この態度について小夜子は「それじゃあずっと駄目じゃん。」と的確な指摘をしている。ベルクソン哲学の用語である「エランヴィタール」の名を冠しているだけの事はあって、「持続の否定」が無ければ跳躍しないという設定なのであろう。
 終盤、小夜子は秀馬に捕まってしまう。ここで秀馬が小夜子の実の兄であった事が判明する。
第16話 小夜子
 第13話で語られていた小夜子の過去がより詳細に明らかになる。
 鹿川家では優秀な兄の秀馬だけが可愛がられ、妹の小夜子は両親から玩具も買って貰えなかった。小夜子の盗癖はここに始まる。小夜子が両親によって生贄にされたのは兄の出世のため。現在の小夜子が月之森姓なのは、黒船が彼女を助けた後に「月之森時子」という老婆に預けたから。
 ココについても、幼少の頃デパートの玩具売り場で集団的無関心を利用した犯人に堂々と誘拐され、脱出後も両親と再会出来ないでいる少女であるという設定が、明らかになる。
 ボッカとココは、水門塔に運び込まれる食料の箱に隠れて内部に潜入する。グローバルノイズキャノン対策として、ユニコーンシリーズ達は外に置き去りにされる。
 水門塔の厨房の責任者は豚頭人身で人語を話す。彼が何を象徴しているのかは謎である。
 秀馬はエランヴィタールに乗ったボッカとの戦いでグローバルノイズキャノンを使用するが、第12話と同じくペガサスシリーズにはこれはほとんど通用せず、キャノンも破壊される。
第17話 天使でなくても持つ翼
 秀馬の所へアルコトナイコトインコが現れる。秀馬は「おお、私にもモンスター様から直に指令が来たか。」と喜ぶ。アルコトナイコトインコは「残念ながら違う。指令ではなく秘密通信だ。相手は同志チャイルドどらごんである。」と言うのだが、それでも秀馬は「リーダーが!」と喜ぶ。モンスターユニオンにおける秀馬の地位が如何に低かったかが判る。
 因みにチャイルドどらごんの本名は、脚本集によると「児玉竜也(こだまたつや)」。彼は体制への反逆児である筈のキャプテンハーロックに、何故か外見だけは似ている。
 チャイルドどらごんはグローバルノイズキャノンが至急必要だと要求するが、秀馬は破壊された事を隠して未発見だと嘘を吐く。
 この時鏡に映った秀馬の姿は、上下が反転していたり、やたら太っていたり、やたら痩せていたり、ぐにゃぐにゃに曲がっていたり、骸骨だったりと、散々である。彼が虚偽の塊である事を示しているのだろう。
 終盤、人質には逃げられ起爆装置も小夜子に奪われ、強みを亡くした秀馬は、ロボット怪獣「ギ・ヒーン」でボッカ達に挑む。
 この時、彼の部下達も大量の簡易型ロボット怪獣「ヤ・コマ」に乗る。末端幹部の部下までこうしたものを使い始めたという事は、モンスターユニオンの技術も日々進歩しているのかもしれない。そういえばグローバルやまねこも、第12話で敗北後に「新型さえ届いていれば。」と悔しがっていた。
 エージェントを次々に倒され、鼠講谷の涙のダムや猿人湾のENGINE1等重要施設を次々に破壊されている様に見えて、案外モンスターユニオンは日々その力を増しているのかもしれない。
 秀馬は敢えてコックピットに入らず、ギ・ヒーンの上に立って自らもランチャーを持って戦う。延々と無能が強調されてきた彼だが、その平衡感覚・腕力・覚悟は本物である。だがエランヴィタールがついに飛んだ事もあって、結局はボッカに敗北する。

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