ビグ・ザムの戦力の検証(宇宙要塞防衛戦限定)

1/400 ビグザム

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 ビグ・ザムの戦力については、様々な見解が存在している。
 本来の用途である大気圏内の要塞の攻略戦に使用されていれば、冷却し易かっただろうからもっと強かった筈だ、という声は多い。これについては特に目立った異論はない。
 しかし実際の運用法であった宇宙要塞の防衛戦における戦力については、作中世界においてすら、リック・ドム十機に劣るというテレビ版のドズルの見解と、二〜三個師団の戦力になるという映画版のギレンの見解とが、対立している。そしてこの二つの見解を典拠に、現実世界でも論争は行われている。
 二人の見解は、どちらもソロモン防衛戦の前になされたものである。そして実際の戦いでは、ビグ・ザムは出撃時に多数のボールとジムとを溶かし、出撃後は大量の敵戦艦を道連れにしている。この戦果だけを機械的に計算すると、ドズルは己の活躍をもって己のビグ・ザム評の誤りを証明したと言えそうである。
 しかし、詳細に敵の撃墜場所と撃墜した敵の種類を検証してみると、そう単純なものでもない事が判る。
 ビグ・ザムがボールやジムといった小回りの利く敵を多数溶かす事が出来たのは、要塞の通路や出口付近だけの話である。中央の大型メガ粒子砲が小型の敵を纏めて倒せるのは、相手の配置が一次元に限りなく近付いた時だけである。通常の宇宙空間では、大型メガ粒子砲でモビルスーツサイズのものを狙うというのは、費用対効果の点で問題があり過ぎる。
 水平全方位メガ粒子砲の一斉掃射で多数の敵戦艦を沈めたのは、周囲に味方がもうほとんどいなかったからである。五分五分の戦いの最中にこんな傍迷惑な事をされては、味方の戦力も士気も大幅に下がってしまうであろう。
 してみると、ビグ・ザムが宇宙要塞の防衛で二〜三個師団に匹敵する活躍をするためには、敵が要塞内部までに侵入してきたり、味方がほぼ全滅していたりする必要がある事になる。
 守りきれるであろう程度の防衛戦でビグ・ザムが出来る事といえば、全方位メガ粒子砲を封印し、大型メガ粒子砲で数分間だけ敵の大型艦を狙い撃ちし、すぐに撤退する事ぐらいである。これだと、確かにドム十機にも劣りそうである。
 よって、ドズルとギレンのビグ・ザム評の差は、ドズルがソロモンを守りきる予定であったのに対し、ギレンがソロモンの陥落を予定していた事に、その原因があると思われる。援軍が遅れたのも、いっそソロモンが陥落してくれた方がビグ・ザムがより多くの連邦軍を削ってくれるだろうと、ギレンが考えたからなのかもしれない。
 このように考えていくと、映画版で「あれ一機で二〜三個師団の戦力になる。」と言った時、実はギレンは戦略の一端を不用意に漏らしていた事になる。後にギレンは、グレートデギンを沈めた一件を平気で漏らし、キシリアにその甘さを指摘されて殺されているが、既にこの時点でもそれとほぼ同じ程度に甘かったのである。ドズルの勘がもう少し鋭ければ、大変な事になっていたかもしれない。
 ドズルはドズルで、兄の軍人としての才能を過小評価していたのであろう。だからこそビグ・ザム観の差異の原因を見極められず、無駄に援軍の具申をしたものと思われる。
 余談だが、キシリアがギレンを殺した途端に、敗色が濃厚になったのであるから、キシリアもまたギレンの軍人としての才能を過小評価したせいで滅んだと言える。
 ギレン・ドズル・キシリアは、互いに馬鹿にし合ったために滅んだのである。
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