『BLASSREITER』(ブラスレイター)全話視聴計画(第21〜24話)

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第21話 蒼白の騎手
 再会したザーギンとサーシャだが、既に二人の価値観の懸隔が拡がり過ぎていたため、単なる物別れに終わる。
 その頃、マレクを探してアマンダとヘルマンはツヴェルフ要塞内部を延々と破壊し続けていた。このため、もう一人の侵入者であるザーギンへの対処も疎かになる。ヘルマンを融合体にしてツヴェルフに対する陽動として使うという第16話のベアトリスの作戦は、一度は失敗したものの、巡り巡ってこうしてしっかりと成功した事になる。
 シドウは独断でマレクの居場所に関するヒントを残す。アマンダは、偶然にも日本の折鶴文化や片仮名についての一定の知識があったため、そのヒントの内容を見抜き、マレクを連れて脱出に成功する。しかも帰り際に、前回の戦いで傷ついたジョセフを回収する事にも成功する。
 脱出後、シドウのヒントに従って頼ったアマンダの叔母から、シドウに関するエピソードが語られる。シドウは広島出身の元自衛官であり、原爆の影響による遺伝子の病気を抱えた子供達のために臓器移植を行ってサイボーグとなった身であるとの事であった。そして手術費用の対価としてスパイとなり、ツヴェルフに潜入していたとの事である。
 シドウがアマンダ達を助けてくれた理由としては、ここでは美談のみが語られている。しかし私が思うに、さっさとアマンダ達に去ってもらわなければザーギンに割く戦力が無くなってしまうという冷静な計算も、理由の大半を占めていた可能性が高い。
 その後、ザーギンはヴィクターの体をスーパーコンピューターに無理矢理融合させると、後をベアトリスに全てを任せて去っていく。一体この行動に何の意味がったのかは、良く解らない。
 終盤では、メイフォンがヴィクターの孫娘でった事が判明する。
第22話 届かぬ想い
 首尾良く救出されたマレクだが、かつて苛めっ子三人衆を殺した事についての罪悪感の作用で、眠りから覚めようとしない。
 そんなマレクに、ヘルマンは同じ融合体としての自分の経験を話して、説得を続ける。自分達は失敗もするが、失敗から学べるという事。仮に失敗ばかりして死んでいったとしても、その事例は他者に記憶され、誰かの学習に役立つという事。こういった話を、武骨な言い回しでヘルマンは眠っているマレクに語り続けるのである。
 これは、比較的賢いジョセフやその育ての親であるミュラー神父が単なる信念としてしか語れなかった「生きる意味はある」という命題に、初めて理由が付された瞬間であった。
 ザーギンもヴィクターも、人を「進化」させようとしたが、それは時間さえかければ自然に出来たかもしれない遺伝子上の進化の速度を速めるという作業を主軸に据えていた。しかしヘルマンは、人類のみが為し得てきた記憶の共有による行動パターンの変化という意味での「進化」の機能についてほぼ独力で気付き、単なる宗教的信念に見えた命題に説得力を付与したのである。
 これを見て、私はヘルマンの成長を強く感じたものである。
 前回の騒動にもかかわらず、サーシャはアンチナノマシン「イシス」の設計図の保存に成功する。そしてリスク分散のため、データを自分の頭の中とアマンダの手の中にだけ残す。
 その動きを見抜いたベアトリスはアマンダ達に攻撃を仕掛けるが、マレクが目覚めた事もあって敗死する。ただしヘルマンはこの戦いで傷つき、直後に死んでしまう。
 ヘルマンを道連れにする際のベアトリスの台詞は、明らかに『機動戦士Ζガンダム』最終回におけるクワトロ=バジーナの「まだだ、まだ終わらんよ。」を意識したものであった。
第23話 劫火の大地
 コンピューターと融合したヴィクターは万能感を抱き、新世界の神を自称し始める。これは明らかに『DEATH NOTE』を意識した発言である。
 ヴィクターの事実上の死によってツヴェルフの機能は半壊し、ドイツにおける融合体対策も大いに後退する事になったのだが、国連軍は不気味な沈黙を守る。この状況から、広島出身のシドウは逸早く核攻撃を見抜き、迎撃に赴く。
 敵の戦闘機の妨害の中、シドウはほぼ全ての核弾頭を破壊し、到底不可能に思えた最後の弾頭も自機の自爆に巻き込んで解決してしまう。
 今まで浮世の義理で戦ってきたシドウであるが、最後の最後で自分の本当に憎むべき敵である核兵器から人類を守る戦いが出来たのであるから、その悲劇的最期は一種の幸福でもあったと言える。
 続いて衛星軌道上からの核攻撃が始まるが、サーシャは荷電粒子砲で弾頭を必死で撃ち落としていく。
 またサーシャが完成させたイシスは、ジョセフに届けられる。目覚めたジョセフがそれを持ってザーギンの所に辿り着くまでの間、マレクは時間稼ぎの役目を立派に果たす。
 マレクは第10話以来ずっと寝ていたのであるが、ヘルマンによる睡眠学習の御陰で、彼の志を立派に継承し、大いに成長していた。
 ザーギンが、ジョセフやマレクといった自分の対抗馬となるかもしれない存在の成長に期待していた動機も明らかになる。戦って勝った方が神が正しいと認めた側だという、非常に原始的な決闘の観念を彼は持っていたのである。
 あえてこの種の「占い」をしたがったという事は、「人類社会が弱者を苦しめるシステムだから人類の大半を滅ぼす」というカルト宗教じみた自己の新しい主張に対して、実の所は今一つ自信が持てなかったのであろう。
 ザーギンはシドウやサーシャやジョセフの自己犠牲的な精神に、一定の敬意を払っており、「何故救われるべき者に限って、愚かな末路を選ぶのだ?」とジョセフに問う。だがこれは本来自己批判のために自己に問うべき質問であったと思われる。ザーギンは自己の基準で人類を「救われるべき者」と「救われるべきでない者」とに分けている訳だが、「救われるべきでない者」のために見返りを期待せずに戦う崇高な精神の持ち主ばかりが「救われるべき者」の範疇に入るような基準を使用しているので、「救われるべき者」でありながらザーギンに共鳴するような者がほとんどいないのである。その事に全く気付いていないのは、非常に愚かである。
第24話 約束の地
 最終回の特別オープニングで、ついにジョセフが主人公扱いされる。
 ジョセフは体内に取り込んだ「イシス」が活性化するまでの間、ザーギンを相手に時間稼ぎをする。
 ジョセフは一度は敗けるのだが、ゲルトの人格と能力を引き継いで復活して善戦する。これも敗けるのだが、今度はヘルマンの人格と能力を引き継いで復活する。これらの場面は、蓄えられていた記録を基にした疑似人格という合理的解釈も可能であり、また死者が死後の世界から援軍に来たという宗教的解釈も可能となるような描かれ方をしている。
 どちらにせよ、第22話でヘルマンによって示された「人類は他者の記憶により進化する」というメッセージを具現化したような場面である。
 そうこうする内にイシスが活性化して、ジョセフの周囲にいた融合体は、ジョセフ本人やザーギンも含めて消滅する。戦いの結果を使った占いに全幅の信頼を置いていたザーギンは大人しく消えていく。
 メイフォンとサーシャは、米軍のICBMと全力で戦い、これと引き分ける形で死んでいく。最愛の孫娘を失ったヴィクターも機能を停止する。
 そして五年後、XATの遊撃隊長と隊員になったアマンダ・マレク姉弟の姿があった。XATは融合体を排除する組織ではなく、融合体化して差別の対象となっている人々を保護する組織へと変化していた。
 やはり理想の世界とは到底言い切れない世界だが、それでも理想を追い求めた事で少しはまともになった世界を見せる事で、希望の残るエンディングになっていた。
全体的な感想
 酷い差別の場面を描く等、「よくここまで描いた!」と褒めたくなる過激な場面が多かった。しかも単に好事家受けを狙っただけの過激さではなく、それを描く事で作品に一層の深みが生まれるような過激さであった点も、高く評価したい。
 差別に関する思想・理論は、文字媒体で幾つも読んできたつもりであったが、この作品によって「成程、こういう視点もあるのか!」と何度も認識不足を突きつけられた。その意味でも、非常に勉強になった。
 一方で敵であるザーギンの行動が余りにも不可解過ぎて、美形であるという以外の魅力に乏しかったのは残念であった。
 近々、漫画版と小説版にも挑戦し、感想を発表する予定である。
ブラスレイター  ジャッジメント (角川スニーカー文庫)

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