百瀬千代著『ブラスレイター ジャッジメント』(角川書店)全二巻も読んだ

ブラスレイター  ジャッジメント (角川スニーカー文庫)

ブラスレイター ジャッジメント (角川スニーカー文庫)

 映像版『BLASSREITER』(以下、「原作」と表記)と漫画版『ブラスレイター ジャッジメント』を鑑賞したので、小説版『ブラスレイター ジャッジメント』も読んでみた。
 第一巻の「あとがき」では、本作は「アニメ本編の前日譚」とされている。
 しかしながら一巻36ページでは、アマンダのXAT訓練生時代には既に、融合体の感染の経路の仮説として「血液の他、体液、粘膜などの交流」が有力視され、訓練生もそれを教わっていた事になっている。原作では、血液感染は第四話でアマンダが科学者に先駆けて提唱した仮説であったし、血液以外の体液による感染の存在を第八話で知ったウォルフは大いに驚いていた。よってこれはかなり原作を無視した設定であると言える。
 小説化に際して幾つかの設定が変えられる事はそう不思議な事ではない。だからこれを読んだ時点では、まだ私は不愉快にならなかった。
 しかし第二巻の41〜43ページの記述を読む限り、融合体に殺される事が感染の必要条件であるという原作初期における間違った通説が、アマンダを含めたXAT隊員の常識として機能していた。ここでは、急に原作の設定に従っている。
 どうやら著者は、自分が過去に書いた文章を直ぐに忘れてしまい、しかもその観点での推敲を怠るタイプの作家らしい。
 他にも、第一巻153〜154ページでは「ザーギンの油断、その隙を突いて。(原文改行)自分はザーギンを倒す。」とジョセフは決意していたのに、同218ページでは「ただザーギンに勝つだけなら、ただザーギンを殺すだけなら、それがジョセフの目的なら、卑怯と罵られようと誰に侮蔑されようと、その隙を突いて攻撃を繰り出しただろう。(原文改行)だがジョセフの目的は違う。」とされている。
 勿論、世の中には卑怯者になろうと企んでいたのにいざという時に気後れしてしまうという事例は幾らでもあるだろう。だからそうした心の変化をしっかり描けば、これらの記述も矛盾ではなくなるのだが、特にそういった断り書きは存在しなかった。
 本作は最近になって電子書籍化されたらしいが、著者のこの欠点は、内容の検索が容易な電子書籍においては、より致命的なものとなる。
 前掲の「あとがき」によれば、本作が著者のデビュー作であるとの事であるが、私が検索した限りでは、デビューから六年経った今でも著者の業績はこのデビュー作しか存在しないようである。やはり電子書籍時代には不適切な人材と判断され、干されてしまったのかもしれない。
ブラスレイター VOL.1 [DVD]

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