『サクラ大戦2』の天笠士郎の存在意義について考え抜いた末、彼の存在自体が京極慶吾にキリストのイメージが投影されている事についてのヒントだと気付いた。

 『サクラ大戦2』には粗暴な陸軍軍人として天笠士郎少佐が登場する。ラスボスである京極慶吾の腰巾着として登場し、その後しばらくは登場せず、2・26をモデルとした太正維新クーデターで多少暴れるも、目立った活躍もないまま退場している。
 初回プレイ時(http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130401/1364824894)には、この天笠士郎は苗字や地位の観点から甘粕正彦の影響を受けていると思ったのだが、どうもその影響は小さなものであると思う様になった。甘粕は満州映画協会時代に李紅蘭のモデルになった山口淑子とも交流があったらしいので、甘粕の印象を強く投影するならばそうした件の反映もあってしかるべきであろう。
 また唯一の見せ場である太正維新に関しても、天笠は全責任を負わされかねない立場にいたのに、結局首謀者は京極ということになり、京極(の影武者?)は自殺している。余り重要とは言えない。
 さらに天笠について考える内に、「ここまで登場回数も少ない非重要キャラならば、モブでも良いのでは?」と一度は思った。
 しかしわざわざ設定画を描いて声優を雇って準レギュラーの扱いにしたのであるから、この男にはモブであってはならない何らかの理由があるのだろうとも考え、思考をめぐらせ続けた。
 そうする内に、「こいつは天草四郎だ!」と気付いた。一度は「名前以外、何にも似てないではないか!」と思って棄却した仮説である。だが、イエスを信じて反乱を起こした天草四郎と、京極慶吾を信じて反乱を起こした天笠とは、立場が非常に似ている。
 ここでようやく天笠士郎の存在意義が解った。彼は、「京極慶吾≒キリスト」という設定をプレイヤーに伝えるヒントとして登場していたのだと。
 京極慶吾にキリストのイメージが投影されている事については、多くの情報から認定出来る。
※共通点その1 京極が生まれた時、賢人機関から三人の使者が来た。キリストが生まれた時も、東方から三賢人が来たとされる。
※共通点その2 京極は死人を蘇生させる事が出来る。キリストにもその能力があったとされる。
※共通点その3 京極は部下である鬼王の裏切りが一因となって滅んだ。キリストも弟子であるユダの裏切りが一因となって死んだ。
※共通点その4 京極は「戦神」と呼ばれた。キリストは「神」とされた。
※共通点その5 京極は真宮寺親子を対立させている。キリストも自分の出現により親子は対立する事になると称している。
※共通点その6 京極は憎まれ蔑まれた者達を集めて黒鬼会を作った。キリストも当時憎まれていた者達を自分の下で組織化した。
※共通点その7 京極の本領発揮は、一度死んだとされてから。キリストの本領発揮も、一度死んで復活してから。
※共通点その8 京極は太正維新軍の天笠士郎に熱狂的に崇拝されていた。キリストは島原一揆天草四郎に熱狂的に崇拝されていた。
 こう並べると、天笠士郎にも京極のキリスト性を際立たせるための重要な役目があったと解るであろう。
 以前私は、京極は魔神器を破壊するためだけにクーデターを起こしたが、実は米田一基も魔神器を絶対に保持しようとはしていなかったのだから、互いに冷静に話し合えば無駄な紛争は無かったという見解を書いた(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130911/1378825204)。
 だが真のキリストになるためには、部下を庇って一度死ぬ事が必要だったのかもしれない。自作のこの表を眺めていてそう考えた。
 そして陸軍の悪事の責任を一身に負うという甘粕的な処遇すら天笠に与えられなかったのも、京極本人がこの「死による強化」を目論んでいたのであれば、得心がいくというものである。

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