高木敏雄著『日本神話伝説の研究』(荻原星文館・1943)

 古本屋で『日本神話伝説の研究』なる書籍を見つけた。1943年9月の発行であった。
 序文は柳田国男が担当しており、大正十四年の日付が記されている事から、元々は別の出版社で出したものの様である。
 その序文に、以下の様な記述を発見した。なお、漢字は新字体にした。
「今でこそ我々は、神代巻の或記事を神話と見ることを許され、所謂田夫野人の日常行事の中から、古日本人の思想と宇宙観とを、発見しようとする態度を嘲笑せられずに居られるが、高木君の初期にはそれは無謀なる大胆であつた。慣習には雅俗の差ありとし、正史は法典の如く、文字通りに解するのが、学者の本分とも謂ふべきものであつた。」
 1943年と言えば戦時中であり、神代史の自由な研究やその発表なぞ到底不可能であったという印象があったのだが、少なくともこの様な序文の書籍を発行する程度の自由があった事を知り、驚愕した。しかも私が入手したものは、初版から半年以上経過した1944年4月に再版されたものなので、官の手落ちという訳ではあるまい。

 この本がなんとたった300円であった。大手の古本屋ではなく、真っ当な老舗でこの値段である。これこそ本物の掘り出し物であろう。序文と発行年月日だけで十分歴史的資料としての価値があると思い、購入した。形式上は、定価5円の60倍の値段で買った事になるのだが・・・。
 いつか本文の感想もここで発表するかもしれないが、とりあえず自慢と公益への貢献とを兼ね、まずは斯様な報告をした次第である。