孫晋泰著『朝鮮民譚集』

 勉誠出版が復刊した(参照→http://www.bensey.co.jp/book/2176.html)、1930年に郷土研究社から定価3円で発行された『朝鮮民譚集』を読んだ。
 これは、近代化によって失われつつあった朝鮮半島の口承文学を聞き取り調査した書籍である。収録された話に興味深いものが多かったのは勿論の事、卑猥な話を語らせる際等での著者の苦労話には、手法として学ぶべき点が多々あった。
 もう一つ面白かったのは、当時の日系日本人の多くにとっては不愉快であったであろう話や表記が、伏字にもされずに記載されていた事である。以下、そうした部分の一部を紹介する。なお引用文中の旧字は新字体に改めた。
 「神話・伝説類」の第14話「朝鮮山川の由来」では、檀君以前の王が登場していた。
 同第24話「兄妹結婚」等の多くの話では、文禄の役を堂々と「壬辰倭乱」と表記していた。
 同第46話「エビヤ原と無心項と血川」には、「昔朝鮮軍が大挙して日本を征伐に行つたことがある。」と書かれていた。
 前述した通り1930年の出版であり、またその初版の復刻であったので、以前総動員体制下に出された高木敏雄著『日本神話伝説の研究』(荻原星文館・1943)の再版で日本書紀の一部を神話と見做す言説が堂々と収録されていたのを発見した時程の驚きは無かったが(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20080506/1210069614)、それでもそこそこの意外感はあった。 

朝鮮民譚集 (1930年) (郷土研究社〈第2叢書〉)

朝鮮民譚集 (1930年) (郷土研究社〈第2叢書〉)