景初二年の外国人公務員

 金文京著『三国志の世界』(講談社・2005)では、卑弥呼・波調に送られた称号である「親魏倭王」・「親魏大月氏王」の「親魏」の部分が強調されていた。そして、魏帝国の内部にある王国の君主ではなく、魏の外部にあって魏と親しい王国の君主だと見做した、という意味の説が採られていた。
 それなりに首肯出来る説だが、これはせいぜい独立性の高さの承認であって、完全な独立国としての承認ではないと、私は思う。何故なら、曹叡親魏倭王の部下である難升米を勝手に率善中郎将に任命し、更に曹芳は難升米に魏の軍旗まで与えている。中華皇帝こそ世界の支配者だという観念が無ければ有り得ない行動であろう。
 さて、現代日本外国人参政権問題・外国人公務員問題においては、承認派が左で反対派が右と分類される事が多い。そこで私は、議論がより深まる事を願い、この魏の難升米に対する態度を参考に、現在あまり使われていない論法を提唱してみる。
 まず「近代的な」反対論・慎重論として、「我が国は穂積八束の言う『祖先教の国』等ではなく、社会契約によって創られた近代国家だ。利害共同体の一員になる契約を結んだ者だけが政策に関与すべきだ。例外を認めるにしても、彼等が契約を結んでいる個々の外国政府と我々の政府との条約に拠るべきだ。」という見解が、もっと叫ばれても良いと思う。
 この対称としての「非近代的」承認論として、「世界一偉い天皇陛下の直轄領の統治機構は、四夷の諸侯国と同列ではない。皇道を慕って直轄領に住み着いた者は、等しくオオミタカラと見做されなければならない。帝国政府の職員の採用基準は、ニューヨークの連合国本部以上に八紘一宇の精神を体現しなければならない。」という見解も、大いに叫ばれるべきだと思う。
「君使人問之曰 子非周人也 而自謂非客 何也 對曰 臣少也誦詩 曰 普天之下 莫非王土 率土之濱 莫非王臣 今君天子 則我天子之臣也 豈有為人之臣而又為之客哉 故曰主人也」(『韓非子』説林上より)

中国の歴史04 三国志の世界(後漢 三国時代)

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