石原慎太郎著『信長記』(河出書房新社・1972)

信長記 (1972年)

信長記 (1972年)

 石原慎太郎著『信長記』(河出書房新社・1972)を読んだ。
 250ページによれば、表題作である『信長記』は、西暦1971年に発表されたものであり、劇団四季によって上演されたらしい。
 中身は、森蘭丸織田信長への愛を非常に美しく描いた戯曲であった。蘭丸は、かつての異性の恋人である香代を捨て、最終的には自分が信長と心中するために、明智光秀を唆して本能寺の変を起こさせるのである。
 石原慎太郎都知事が同性愛者を蔑視したという新聞記事を、私は時々見かける。とはいえ私は今のところこの件に関しては、新聞記者によって編集された発言を読んだ経験しかなく、発言の全文を文字化したものは読んだ事がないので、今回は『信長記』を使った石原批判も石原擁護も行わない。ただ、どのような形であれこの問題に関わる人が読んでおくに越した事はないであろう書籍だとは思ったので、そういう人々のためにも一応紹介してみた。
 なお、本書には大久保利通を主人公にした『若き獅子たちの伝説』も収録されている。信長も大久保も、余人には理解し難い理想を実現するために強権を振るう、少なくとも「余人」にとっては傍迷惑な存在として描かれていた。現都知事と印象が重なる箇所もしばしば見られたので、同性愛者観のみならず、政治家としての石原慎太郎を考える役にも立つかもしれない。
 ただし、ラストシーンは危険な犯罪なので、決して真似しないで下さい。