- 作者: 司馬遼太郎
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日本共産党から追放された西沢隆二が、愛嬌たっぷりに描かれていた。この本だけを読むと、西沢に対して「日本共産党の元幹部でありながら資本論を全然読まず、詩とダンスの中で生きていたために、後年に理論を重んじて幹部を簡単に追放する党の餌食となってしまった可哀想なタカジ」ぐらいのイメージしかわかないと思われる。
しかし伊藤律著『伊藤律回想録』(文藝春秋・1993)を読むと、全く違ったイメージの西沢に出会える。
西沢は積極的に伊藤を排除するためにスパイ疑惑をかけ、中国共産党に伊藤を半永久的に拘禁させるという企みの中心にいた事になっている。53ページでは野坂参三以上にこの企みには積極的であったという分析がなされ、56ページには「オレはこうやることも下手ではないし、徳球だって操った」という台詞が登場している。そして伊藤は野坂・西沢によって名誉と27年の時間とを奪われたのである。被害の期間はエドモン=ダンテスの約2倍である。
勿論、伊藤の記憶が全面的に正しくて、司馬の目に映った西沢像が全面的に間違いだと、私は主張したいのではない。ただ、司馬の影響力の大きさと伊藤の知名度の低さとを勘案した上で、前者の描く西沢像ばかりが世に広まり過ぎるのは良い事ではないと思ったので、『ひとびとの跫音』の読者に『伊藤律回想録』を併読する事を奨めた次第である。両方を読んだ上で、各人が西沢が「タカジ」であったか「フェルナン」であったかを判断して欲しい。
東側の実態が明らかになった事により、日本では「あいつは昔、あんな国や運動や人物を称賛していた!」という検証が盛んに行われたが、その対象は一般に「左派」に分類される文章家に大きく偏っている。だが実際には、例えば「右派」受けの良い司馬遼太郎もまた、こうして西沢隆二を肯定的に描いたり、『長安から北京で』で文化大革命を称賛していたりするのであるのである。
- 作者: 伊藤律
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- 作者: 司馬遼太郎
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- 作者: 谷沢永一
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