『魔法少女まどか☆マギカ』全話視聴計画(劇場版前編・後編)

 「今日は早く帰れたな。」と思いながら来年公開の映画の前売り券を買いに某映画館に寄ると、劇場版『魔法少女まどか☆マギカ』(http://www.madoka-magica.com/)の前後編連続上映が始まる直前であった。こうなるともう後戻りは出来ない。一気に観て深夜に帰宅という運びになった。
 因みにテレビ版初見時の感想はこちら(http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120618/1340029406http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120619/1340107215http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120620/1340200870http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20120623/1340447502)。事態を収拾させる究極の願いをほぼ完全に言い当てた点は少々自慢であるが、鹿目詢子の行動を深読みして悪人だと決めつけたのは大失敗であった。また志筑仁美をメインキャラクターの一員だと勘違いしたのは、まんまとスタッフの仕掛けた罠に嵌ったものだと言えよう。
 その後、記憶を頼りに考察を進めていたので、そろそろ第一次の総括をしたいと思っていた。そんな折に観賞したのがテレビ版とほぼ同一内容のこの劇場版である。これを機に、新たな考察を付け加えたいと思う。
前編
 新主題歌とともに、鹿目まどか美樹さやか・志筑仁美の微笑ましい成長の記録が映し出された。テレビ版では設定そのままの姿でポッと視聴者の前に出現した彼女達だが、劇場版ではこの新映像により主人公達に感情移入がし易くなっている。当然、彼女達が失ったものの重みも一層深く認識出来る。
 作画については、水の流れ等がかなり丁寧に描き直されていた一方で、鹿目詢子やさやかが被っていた布団の柄が、布団がどんなに波打とうが曲がろうが一切影響を受けない等、妙な所で手抜きが見られた。
 話の内容は、テレビ版の第1〜6話の要約だという大方の予測を覆して、第1〜8話の要約であった。このため仁美の登場場面が大幅に削られ、彼女をメインキャラクターの一員だと思わせる誤誘導は消えている。
 負傷したキュゥべえを救いに来たまどかが暁美ほむらと再会する場面では、「鎖」が強調されていた。後半で明らかになる、二人を取り巻く因果の連鎖の予兆であろう。
 学校の英語の授業で仮定法過去が教えられる場面はしっかり残っていた。テレビ版でこの場面を見た時には、漠然と「中学二年生にしては高度過ぎる!」と思っただけだった。そしてこれには「このアニメは『〜だったら良かったのになぁ!』という後悔の連続の物語ですよ。」というメッセージが込められているという事に、先程漸く気付いた。
後編
 後編はテレビ版の第9〜12話をほとんど削らずに編集したものである。
 鹿目まどか暁美ほむらの家を訪ねる場面でも、ドアのチェーンが強調されていた。これも二人の間の「鎖」を意味しているのだろう。
 ほむらの時を越えた半永久的な戦いの中心には、まどかが居る。キュゥべえも御丁寧に「螺旋の中心軸」という言葉を使っている。授業の場面でフィボナッチ数列が登場しているので、ますます螺旋のイメージは強まっている。
 フィボナッチ数列によって作られる螺旋は対数螺旋であるが故に、永遠に中心軸に触れる事は出来ない。このためほむらは本来永遠に問題を解決出来ない。そこで「生の跳躍」が必要となる。
 どれだけ音声言語を費やしても理解して貰えなかったからこそ、ほむらは無口になってしまっていたのだろう。しかしだからこそ今回は泣きながらまどかを抱き締めるという行為に出たのである。そしてこれこそが、ヴィトゲンシュタインを前期ヴィトゲンシュタイン的な完璧に完結していたかに見えた閉じた世界から解き放った、ジェスチャーの力である。
 そして「かなめまどか」とは、「要・円」の意味なのだろう。
 「円」とは、ほむらの戦いの軌跡であるのみならず、ほむらが持っている時間を操る円盤でもあり、あらゆる平行宇宙で紡がれた物語の全てでもある。その中心に北辰の如く要として位置しているのが、鹿目まどかなのである。
 このアニメは、大乗仏教風に解釈するならば、「希望」という名の欲望によって生み出された「魔法少女」という因果に苦しむ者を済度しようとしたまどかが、あらゆる平行宇宙の前時間に同時に存在する救済の作用という概念そのものとしての大日如来へと昇華する物語である。
 新世界において「魔女」の代わりに因果を背負っている「魔獣」の外見が仏僧に近いのは、問題の解決が仏教的に成し遂げられた事を示しているのかもしれない。
 また己の意に沿わない世界を一旦終わらせて、新たな法則に基づく新世界を創造した点に着目すれば、一神教的な世界観をも併せ持っていると言える。
 因みに早乙女和子と鹿目詢子が酒を飲んでいるバーには、システィーナ礼拝堂の天井画にある『アダムの創造』の模写が掲げられていた。
 真の絶対者による無限の愛と救済と創造の物語である。これ程スケールの大きな宗教的アニメが他にあっただろうか?今後宗教法人がアニメーションを制作する際には、本作から大いに学んでほしい。
余談
 かつていつも身の程を弁えない利他行をしようとして傷ついたり腹を立てたりしてきた私は、外観的な行動の評価の下では「あなたは美樹さやかタイプ」と言われるであろう。
 しかし私は、暁美ほむらの半永久的な戦いの中の孤独にこそ、猛烈に感情移入している。
 別に何度やってもエアーマンを倒せなかったとか、そういう理由からではない。ない筈だ。

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ロックマン2

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