『サクラ大戦 漫画版』総論

サクラ大戦 漫画版 1 (1)

サクラ大戦 漫画版 1 (1)

 メディアミックス化が行われたフィクション作品においては、諸作品間の強弱関係は変化し続ける。知名度の強弱も変化するし、年表を編纂する際の史料的価値の強弱も変化する。
 サクラ大戦シリーズにおいては、例えば1923年度を舞台にした『サクラ大戦TV』は、後の年代を描いた『サクラ大戦2』等の別作品と内容的につながっていないので、史料としての価値は初めからほぼゼロである。知名度はDVD化の直後等に一時的に大いに伸びたであろうが、それとは無関係に史料的価値は不動のゼロである。
 一方、同じく1923年度を描いた『熱き血潮に』は『サクラ大戦2』の物語と繋がっているので、史料的価値が認められる。初代『サクラ大戦』と矛盾する部分は、今後どちらを「史実」として位置付けるかについて様々な議論がファンの間で続くであろう。
 また歌謡ショウ『紅蜥蜴』の史料的価値が『豪華絢爛』によって大いに損なわれた経緯は、以前別の記事(http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130812/1376279031)に書いた通りである。
 そして現在急速な強大化の動きを感じる作品が、政一九氏の描く『サクラ大戦 漫画版』である。
 話の進み具合は非常にゆっくりであり、西暦2002年に書き始められた作品であるというのに、まだ初代『サクラ大戦』の内容すら消化していない。だがゲームや小説やアニメの新作が長年作られない間にも描き続けられてきた事で、徐々に力をつけてきた。そしてこの漫画の内容をそのままアニメ化して全世界に発信するという"TOMOTOON"化の構想により、今後一気に知名度を高める可能性が出てきたのである(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130805/1375633888)。
 知名度の強大化は、間接的に史料的価値の強化にも繋がる。世界中の人間がゲームの『サクラ大戦』よりもTOMOTOON化された『サクラ大戦 漫画版』の方を楽しんでいる状況では、本作を無視した年表を作っても支持はされないであろう。
 また本作は元来からして史料的価値の高い作品であった。『サクラ大戦 漫画版 COLLECTION』の40ページで原作者の広井王子氏は「実は各メディアでの統一を取るためにスタッフ間で協議をしているんですよ。当初から加わっている連中が中心で、僕自身も「こういう風にしたい」という場合には審査されますから(笑)。でも、歌謡ショウとかフィギュアとか、ある程度の違うベクトルというか、いろいろな作品での「ゆらぎ」は認めていますし、当然、政先生のマンガもその中に収まっています。(原文改行)それも、かなり王道としての位置にいますからね。」と言い、本作の史料的価値の高さを権威的に保証している。
 本作のもう一つの強みは、様々な媒体で発表されてきたサクラ大戦のアイディアを少しずつ取り入れているので、集大成的な印象がある事である。史料的価値がほぼゼロの『サクラ大戦TV』も、刹那・羅刹・ミロクが反魂の術で復活するというアイディアとそのデザインの採用という形で本作に取り込まれている。原則として花組が八人揃った後の時代を描く歌謡ショウからも、第一部第7巻9ページで桐島カンナが「さてと」を「ぽてと」と言い間違い易いという設定を採用している。そしてプールで機雷を避けながら泳ぐというリアリティの低いミニゲーム「帝都のトビウオ」すら、第一部第6巻117ページで本編とは関係の無いイラストとして採用されているのである。
 もともと強力であった作品が近年一層強力になってきたのであるから、これは鬼に金棒である。今までは無視していた人にも、今後は一読を勧めたい。
サクラ大戦TV DVD-BOX

サクラ大戦TV DVD-BOX

サクラ大戦2通常版

サクラ大戦2通常版

サクラ大戦 ~熱き血潮に~(通常版)

サクラ大戦 ~熱き血潮に~(通常版)

サクラ大戦 (通常版)

サクラ大戦 (通常版)

サクラ大戦歌謡ショウ3 帝国歌劇団 第3回花組特別公演 紅蜥蜴 [DVD]

サクラ大戦歌謡ショウ3 帝国歌劇団 第3回花組特別公演 紅蜥蜴 [DVD]

サクラ大戦 漫画版 COLLECTION (KCデラックス)

サクラ大戦 漫画版 COLLECTION (KCデラックス)

サクラ大戦 漫画版(7) (マガジンZKC)

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サクラ大戦 漫画版(6) (マガジンZKC)

サクラ大戦 漫画版(6) (マガジンZKC)