第八話 兄弟
前回は星明の生い立ちが明らかになったが、今回は雷吼の生い立ちが明らかになる。
多田新発意が藤原道長の仲介で藤原致忠の娘と結婚した際に、その間に新しく生まれてくる子供(後の源頼信)が自動的に黄金の鎧の後継者になれるよう、母とともに捨てられたとのことである。第二話の吹雪の中で星明・金時に救われたのは、どうやらその直後のことだったようである。
ちなみに多田新発意は回想シーンで藤原致忠の娘と結婚する時にも、周囲から「新発意」と呼ばれている。ただし髪は生えている。出家の前から何らかの理由でそういうニックネームだったのか、それとも耄碌して記憶が歪んでいるのかは、定かではない。
そうした工作をしたものの、結局黄金の鎧は雷吼を選んだらしい。
そして雷吼に仕え続けた金時は少年の姿のままであり、新発意を選んだ渡辺綱は順当に老いたという設定も明かされる。
これは倉橋ゴンザが、冴島大河死後しばらくの間の牙狼不在の時期には普通に老い、その後で牙狼の系譜が復活すると老いる速度が遅くなった件と、同じ理由によるものなのだろうか?
終盤での火羅との戦いでは、前回星明の母を元に作られたばかりの新兵器もしっかり活躍していた。
第九話 光滅
鎧に溜まった邪気を浄化する話。
過去の牙狼シリーズではこの作業は大して難しいものではなかったが、今回は星明がその邪気を体に取り込み、死ぬまで抱え続けなければならないという設定になっていた。
文明が進んでいないせいなのか、それとも邪気の溜まり方が通常とは違うせいなのかは、不明である。
星明のかつての師であった先代蘆屋道満は、この作業のための術を星明に教える。
当代の蘆屋道満はそれに不満を抱く。当代蘆屋道満と先代との間に、今迄には無かった綻びが生まれ始めた。
第十話 一寸
題名の通り、『一寸法師』の物語が参考にされている。
陰陽師の勢力に押されて仏教が流行しない事を嘆いていた僧の陰我が、蘆屋道満の扇動で増大し、火羅が誕生する。
彼が直前まで読んでいた経には、「度一切苦厄」・「不生不滅不垢不浄」・「不増不減」といった『般若心経』関連の用語が数多く書かれていた。よって般若心経系統の経であろうと思って『大正新脩大藏經』のテキストデータベース(http://21dzk.l.u-tokyo.ac.jp/SAT/index.html)で検索をしてみたのだが、同じ文章の経は発見出来なかった。マイナーな経なのかもしれないし、架空の経なのかもしれない。
火羅は養生のため人を食べ続ける。そしてその火羅を倒すための戦いで疲れ切った雷吼に用意された「精のつく」料理は、雷吼との間に一度は友情が芽生えたスッポンであった。
魔戒騎士による人間本位の正義のある種の身勝手さを問い直す回であったと言える。
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