テレビ版『うる星やつら』第130話「異次元空間　ダーリンはどこだっちゃ!?」――サザエ時空のほぼ完全なる解決

出版社/メーカー: ファイブエース
発売日: 2001/03/09
メディア: DVD
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　漫画・アニメに関する造語として、「サザエ（さん）時空」というものがある。『サザエさん』に由来するこの造語が指す内容とは、「定期連載・放映作品の劇中世界の季節が現実世界とほぼ平行に変化しているというのに、何年経過しても登場人物達が歳を重ねない」という事態である。
　『うる星やつら』は、原作においては早々とサザエ時空の回避が諦められたのに対し、後発のテレビ版の初期においては、サザエ時空回避のための一応の努力が見受けられた。
　私が見る所、テレビ版がサザエ時空に突入したのは、第89話「はっぴぃバースデーマイダーリン」からである。第56話「花和先生登場！これが青春だね」では制服が夏服の時期にラムが2年4組に転入してきているというのに、この89話では四月の初頭にラムの連続欠席が2年4組で問題視されているのである。出席簿にラムの名が記載されている事も示唆されているので、単に学校に遊びに来なかった事を指しているのではない事は明白である。
　テレビ版の前半のチーフディレクターでもある押井守氏が監督を務めた映画第二作『ビューティフルドリーマー』は、『うる星やつら』世界を題材にサザエ時空を主題にした話である。内容は、主要登場人物達は学園祭前日を繰り返させられる世界に封印され、やがてそこから脱出するも、最終的にやはり日常を反復する世界から脱出出来ていない事が示唆されるというものである。
　このようにサザエ時空への氏の「解答」は見事なものであり、これで時系列上の細かな矛盾は寧ろ作品世界の「設定」にすら内包されたのである。過去の放映の細かな設定を全部覚えていなくても、かなり自由に原作をほぼ再現した話を作れるようになったとも言える。
　しかしながらこれだけでは、登場人物の性格に異常な程の変容があった場合の説明は難しい。また『うる星やつら』世界の最大の謎である、「全世界規模の侵略の一環として行われたラムと諸星あたるの鬼ごっこは、詳細にテレビ中継されていた筈なのに、面堂終太郎や花和先生といった途中で参入した登場人物達は、何故登場当初にラムの存在を知らなかったのか？」という疑問には、全くの無力である。
　そこで本日は、後任のチーフディレクターであるやまざきかずお氏による「解答」を再評価してみる。
　第130話「異次元空間　ダーリンはどこだっちゃ!?」は、やまざき氏が最初にチーフディレクターを務めた作品である。第129話「死闘！あたるvs面堂軍団!!」が押井版の集大成として最終回の気風を備えていたように、130話はやまざき版の初回として作品の理念が表明された内容であった。
　この話でラムは、ラムがあたるに鬼ごっこで勝利した世界・ラムの夫が面堂である世界・登場人物の性別の設定が逆である世界・あたるがラムに優しい世界を遍歴した後、「本物みたい」な世界に到達する。そこはかつていた世界と同一である保証は無いものの、「ま、いっか。」で済む程度の違和感しかない世界であったのである。
　これにより、時系列以外の矛盾も全て正当化されたと言えよう。例えば第120話「決斗！弁天vs三人娘!!」であたるがしゅがあ・ぺっぱあに抱きついているが、この設定を墨守せずとも、原作やそれに近い世界の延長線上として第168話「またもや三人娘！ダーリン誘惑大作戦!!」を作成し、彼女達の誘惑が全く通じない人物としてのあたるを描く事が、十分可能になったのである。第121話「ラムちゃんがいっぱい！」等の収拾のつかない終わり方をした話も、平行世界の一つにおける事件として正当化する事が可能である。
　そして忘れてはならない事だが、映画第二作が『うる星やつら』以外の作品におけるサザエ時空への解答を兼ねていたように、130話もまた、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』等の収拾のつかない終わり方をする回もある一話完結型作品全てへの解答にもなっている事である。
　なお余談だが、実は押井時代にも平行世界の存在を示唆した話が存在する。第101話「みじめ！愛とさすらいの母!?」である。やまざき氏はこの話の作画監督を務めているので、101話は130話の源流の一つと言える。ただし101話に登場した諸世界は、互いの設定が過度に異なっており、平行して存在している世界というよりも夢としての色彩が強いものであったので、正面から作品の世界観に解答を与えたものとは言い難い。