『サクラ大戦 紐育・ニューヨーク』

 ゲームの『サクラ大戦V』の二周目を終えたので、その後日談を描いたOVAを観賞してみた。

サクラ大戦ニューヨーク・紐育 第1巻 限定版 [DVD]

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第1話 ミー&マイガール
 ゲームのファンに応えるため、ゲームに登場した地区や店がしばしば再登場していた。その一方でゲームに詳しくない視聴者のために、全ヒロインに少しずつ単独行動の機会を与え、各員に特徴的な行動を取らせていた。
 ゲームでは静止画と台詞の組み合わせが基本だったのだが、アニメでは各員が激しく動いてくれる。特にリカが「くるくるくるー!」と言う時に実際にどういう身動きをしているのかを知れたのは収穫であった。
 動きに手を抜かない精神は細部にも現れ、立ち止まっているラリーの尻尾すら動き続けていた。
 なお、五人のヒロインの中で大河新次郎と際立って親密な人物は存在しない。よってゲームのトゥルーエンディングは、二周目以降に見られるラチェット重視のものだった事が判った。
 今回の敵はエジプトから来た謎の青年なのだが、まだ真の力を得るには至っていないらしく、召喚した中ボスもゲーム内における1ターン程度の攻撃で沈んでいた。これは徐々に敵を強くしていくための、中々見事な設定であると思う。
第2話 X…and The City
 直角の曲がり角を挟んで運命の相手と激突するという使い古された手法を、敢えて人間と眼鏡との間で行わせる事で、新鮮味を回復させていた。この手法も注目に値する。第3話 星の輝く夜に
 九条昴がバタフライを平泳ぎとは別の泳法として平泳ぎと並列させていた。現実世界のバタフライの起源は確かにこの物語の前年のオリンピックにあるのだが、当時はまだ平泳ぎの一種に過ぎず、独立には二十年以上の歳月を要した筈である。脚本家のミスなのか、パラレルワールドである事の強調なのか、昴の見識の深さの強調なのかは、不明である。
 今回、敵の正体がツタンカーメンである事が判明する。
 なおゲームで初登場以来エンディングに至るまでほとんど工事が進まなかった謎の工事現場は、今でも鉄骨が組まれているだけの現場であった。そして今回の戦闘でついに崩壊していた。
第4話 マザー、アイウォントゥシング!
 新次郎の母親である大河双葉が初登場する。舞台で見て以来個人的に気に入っていたキャラクターだったのに、ゲームには登場せず終いだったので、これは中々嬉しかった。
 双葉は新次郎を原則として「新君」と呼ぶのだが、シリアスな状況では「大河新次郎」と呼んでいた。
 またこの時、「自分を信じろ、自分の心を信じろ!」と言っていた。この台詞と溺愛の態度から類推するに、「新次郎」は次男風の名前だが実は一人っ子で名前の由来は「信じろ=Shinjiro」である可能性が高い。
サクラ大戦ニューヨーク・紐育 第3巻 [DVD]

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第5話 禁断の楽園
 ツタンカーメンの墓が暴かれた年代が現実世界と同じく西暦1922年である事と、ツタンカーメンはこの七年間も細々と活動していた事が、判明する。
 この事から考えるに、ゲームの第2話冒頭で少しだけ話題に出ていたミイラ騒動もまた、彼の仕業である可能性が高い。
 ツタンカーメンの理想が人々から「心」を奪って平和な世界を創る事だと判明する。ニューヨークの人々はフロンティアスピリットを失って無気力になるが、確かに犯罪は減ったので、新次郎は悩む。
 この設定はおそらく、ゲームのラスボスである信長の対極として意図的に作られたものだと思われる。フロンティアスピリットが行き着く所まで行ってしまうと、弱肉強食のみの世界になってしまい、それへの対策が行き着く所まで行ってしまうと、秩序のみの死んだ世界になってしまうのである。
 この二つの態度をそれぞれ推し進める二大勢力を敵として登場させ、そのどちらにも偏らない事を是とする弁証法的な物語としては、『女神転生』シリーズや『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』等の先行作品があるが、個人的には本作が一番気に入った。
 また「心」という概念が三千年前の人間にとっては新規なものだったという設定は、ジュリアン=ジェインズの仮説に影響を受けたものと思われる。
第6話 紐育(ここ)より永遠(とわ)に
 仲間が雑魚を防いでいる間に主人公のみがラスボスの待つ地点に到達して問題を解決する。
 主人公は最後には傷ついた搭乗機を捨てて生身で頑張る。
 この二つの手法は本来王道なのだが、果たしてサクラ大戦というコンテンツに相応しかったかは謎である。
サクラ大戦V ~さらば愛しき人よ~ 通常版

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真・女神転生

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神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡

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