『魔法少女まどか☆マギカ』をこの度初めて視聴した。
様々な媒体で引用され続けているこの作品であるが、私が事前に知っていた情報は二つだけである。第一は、魔法少女になるという契約が多くの犠牲を伴う非常に損なものであったために、放映中に3・11事故が起きた事もあって原子力発電に喩えられた事。第二は、少女が首を切断されて殺される衝撃的な場面がある事。
これしか知らなかったのは、いつか一気に視聴する際により楽しめるように、なるべく情報の摂取を避けていたからである。
以下の感想の中には、後知恵で考えると削除したくなる記述も入っているのだが、やはり誤解も含めて視聴時点の率直な感想を紹介する事にした。
魔法少女まどか☆マギカ 1 【完全生産限定版】 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: アニプレックス
- 発売日: 2011/04/27
- メディア: Blu-ray
- 購入: 49人 クリック: 2,703回
- この商品を含むブログ (348件) を見る
魔法少女まどか☆マギカ 2 【完全生産限定版】 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: アニプレックス
- 発売日: 2011/05/25
- メディア: Blu-ray
- 購入: 41人 クリック: 1,027回
- この商品を含むブログ (132件) を見る
序盤、魔法少女の「暁美ほむら」が謎の敵との戦いの中で劣勢を強いられていて、謎の小動物「キュゥべえ」にこの状態を君なら変えられるとけしかけられるという夢を、主人公の「鹿目まどか」は見る。目覚めた後、ベッドに置かれているヌイグルミを確認すると、キュゥべえに形状が似ているものもある。
オープニング映像が始まる。非常に子供っぽい場面も多いのだが、性が強調された場面もまた多い。その非均衡にこそ、この物語の主題があると言わんばかりだ。
まどかの一日は母「鹿目詢子」を起こす事で始まった。詢子は息子である幼児が布団の上に乗って起こそうとしても起きない。下手をすると息子が大怪我をしそうな体勢であるというのにである。
まどかが太陽光を用いて詢子を起こすと、詢子は酷く苦しむ。
その後二人は親子で歯を磨き始める。恋愛が話題なのだが、詢子の恋愛評論は的確だが恋愛観はすれきっている。
詢子は化粧を始める。数多い化粧道具には手順を示すと思われる番号がきっちり振られている。
「愛情の欠如・それでいて性愛には詳しい・太陽光が苦手・上手に化ける」という特徴から考えるに、ここでは詢子の「魔女」性が強調されていると思われる。
ここでは排水口の存在も強調される。人が美しくあるために使用した後の汚い水を、見えない場所に排除してくれている。
やがて登校の場面、やたら上品な口調の御嬢様「志筑仁美」と男性的な「美樹さやか」がまどかの友人として登場する。典型的な二人の仲間といった感がある。
学校は、教室の壁が無色透明である。ミシェル=フーコーが学校教育までをもパノプティコンの類型と見做した事について、「教壇にいる一人の教師の目なんて、そんなに行き届くものではない。」という批判を以前耳にした事がある。なかなか見事な批判であったが、壁が視線を遮らないこの種の教室においては、フーコーの分析の方が力を持つであろう。いつ廊下の通行人に背後180°方向から観察されているか 知れたものではないのだから。
また白い制服を着て整然と並んでいる生徒達の後ろ姿は、どことなくオウム真理教を想起させる。
やがてまどかが夢の中で見たほむらが転校生として紹介され、まどかは驚く。
ほむらは高校一年生レベルの「数と式」の単元に属する問題を易々と解く。周囲の生徒は驚く。この時点ではそれがどれだけ凄い事か判らなかったのだが、やがてまどか達が中学二年生である事が明らかにされていた。
ほむらはまどかに、意味深な忠告をする。「魔法少女になるな!」という意味の事を言いたかったのは判るのだが、そう直接言わなかったのが、口下手だからなのか何らかの掟によるものなのかは不明である。
後半、ほむらはキュゥべえを殺そうとするが、キュゥべえに呼ばれたまどかとさやかによって阻止される。ここでも口数の少なさ故にまどか達の説得に失敗する。
そして彼女にとって運の悪い事に異世界的なものの現実への浸食が始まる。この異世界的なものは、大昔に一部の国で見られたタイプの、印刷技術の悪そうなざらついたカラーで描かれたオブジェで構成されている。かなりの不快感があると同時に、特にアニメに一定の造詣のある者にはどことなく郷愁ももたらしてくる。
異世界的なものの中の一部はまどか達を殺そうと近づいてくるが、そこに魔法少女「巴マミ」が登場し、敵を片付け、ほむらをも追い払う。
- 作者: ミシェル・フーコー,Michel Foucault,田村俶
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1977/09/01
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 124回
- この商品を含むブログ (233件) を見る
巴マミとキュゥべえから、鹿目まどか・美樹さやかは魔法少女に関する基礎知識を教わる。キュゥべえに選ばれた者は、何か一つ願いをかなえてもらう代償として魔法少女になり、魔女と戦う義務を負うとの事である。前回の異世界的なものは、魔女の創り上げた結界だったようである。また魔女を倒すと見返りもあるので、手柄の奪い合いをしたり新たな魔法少女の誕生を阻止したりする魔法少女もいるとの事である。そして暁美ほむらがキュゥべえを襲った理由もそこにあるのではないかという見解を、マミは述べる。
それにしても「何でも願いを叶える」というのは口で言うのは容易いが、実際にはかなりの大事である。学校の仕組みが現実の日本とかなりかけ離れていた事を考えると、主人公は誰かが容易にプログラムを修正出来る仮想現実の中にいるのかもしれない。
「見返り」の正体は「グリーフシード」だと後半で明らかになる。これは戦いで失った魔力の回復装置に過ぎなかった。してみるとたった一個の願いを叶えて貰う代償に、実質的に無報酬の戦闘を延々とやらされる事になる。これは確かに酷い契約である。
しかしここで私は思った。アニメ版『魔法騎士レイアース』の最終回における「柱の無い世界」を望むという種類の裏技は使えないものか、と。『アウターゾーン』でも、願いを叶える「魔神の手」に対し、自分だけが得をする願いをすると必ずその代償が生じてしまうが、世界平和を望めば誰も損をしないという、教訓的な内容の話があったと記憶している。
もしも「魔法少女の敵である魔女が今後永久的に消滅し、魔法少女が戦いを強いられない世界にして下さい。」と願えば、全てうまくいったのではあるまいか?
なお、ビルの壁にドイツ語の詩が書かれている場面があった。なるべく他人の調査に頼らない心算ではあったのだが、こればっかりは検索に頼り、『ファウスト』の一節だと知った。「安易に契約をするな!」というメッセージが込められているのであろう。
なお、キュゥべえに選ばれたまどか・さやかは、契約以前の段階であるにも関わらず、互いにテレパシーを送れるようになる。
この事で志筑仁美はやや孤立化する。エンディングでは三人が仲良くしているので、やがて彼女も仲間になるのかもしれないと思った。
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2010/12/22
- メディア: DVD
- 購入: 5人 クリック: 404回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
- 作者: 光原伸
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/01/18
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 46回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
序盤、魔女が分身を作れる事、分身は弱いけど成長する事、分身を倒してもグリーフシードを落とさない事等の設定が語られる。
鹿目まどかを魔法少女にしたがる巴マミと、それを歓迎しない暁美ほむらとの間で、反目が深まる。どちらかというとマミの方が強いため、ほむらは後半では動きを封じられてしまう。
まどかは、マミの数々の苦戦を見ても怖れるどころか憧れが募る一方で、願いの代償どころか魔法少女になってマミと共に戦う事自体が願いという状態にまでなる。
しかし今回の戦いでマミはまどかの目の前で首を齧り取られてしまう。これが私ですら事前に知っていた有名な場面か、とやや感慨深かったのだが、想像していた程には残酷さは強調されていなかったので、少々残念でもあった。
その後、封印が解けたため助けに来たほむらによってまどか達は救われる。そしてほむらは、マミの末路を目に焼き付けておくよう忠告して去る。
単純に魔法少女に憧れていたまどかの心境がこの後にどう変わったのかは、今回は語られなかった。
なお、今回の画風も、原則は現代のおっとりした系統のアニメ風、結界はざらついた小汚いカラーコピー風であったのだが、魔女は数十年前のディズニーのカラーアニメ辺りを想起させる画風であった。それらの不調和は、不快感をもたらすとともに、やはり一種独特の芸術的感性を揺さぶる。
エンディングは、前回までとは違い、暗い雰囲気であり、志筑仁美も登場しない。今までの明るい登下校生活が終わり、戦いの世界に否応無く突入させられたという感触が醸し出されている。
またこのエンディングの「キャスト」を見て気付いたのだが、魔法少女やその候補者の姓名は、皆「漢字の苗字+仮名の名前」で統一されている。しかもその漢字の苗字を音声化すると、「かなめ・あけみ・みき・ともえ」と、どれも名前としても一般に通用する発音になっている。これは意図的なものなのだろうか?
仮に意図的であるとすると、仁美の戦線への参入は絶望的である。
そして「キュゥべえ」の表記が、前半は片仮名で後半が平仮名である事も、こうした法則と何か関係があるのだろうか?