自由民主党の改憲草案に基本的人権の大幅な制限等の危険な内容が相当盛り込まれているとして、現行憲法護持論者のみならず穏健な改憲論者からも大いに不評であると聞いた。
だが実は私はこの件についてはほとんど心配をしていない。
何故なら、本気で憲法を大幅に変えたいなら、まずは穏健な改憲派と手を組む筈だからである。
具体的には、第九条や第九十六条等の改正論者が多数いる条文だけを変えようとする。それが成功すれば、極右にとっても最終目標への一歩の前進ではあるし、だからこそ次は二歩目に全力を投入出来るというものだ。
九条を変えるだけでもかなり難しいというのに、敢えて基本的人権の制限までをも宣言したという事は、本気で憲法を変える積もりが無いという何よりの証拠であろう。
勿論、余りに反対意見が弱ければそのまま強行される可能性もあるので、大騒ぎしている人を馬鹿にする積もりは私には無い。寧ろ感謝している程である。
さて、では何故自民党は敢えてこの時期にこうした行動に出たのだろうか?
私はこれを、維新の会潰しであると見ている。
維新の会は概ね自民党の右に位置する政党である。そして一時的な人気に頼っている(いた)一方で、地盤は弱い。放置していると一大勢力になりかねないが、類似の政策を叫ぶ大政党に一押しされれば瞬時に票を奪われてしまう存在である。
逆に概ね自民党の左に位置する民主党は、人気こそ凋落しているが、多くの圧力団体と親密な関係を保っている。類似の政策を叫んでも、民主党からこれ以上の票を奪うのは難しい。
また自民党が右傾化した場合、左派の票の一部はどうせ友党である公明党が回収してくれる。だが左傾化した場合、民主党を切り崩す前に公明党を削ってしまう心配があるのだ。
そういった理由からも、今右寄りの振りをする事は、自由民主党にとってかなり合理的な態度なのである。
三年前には私は当時の自民党にとって右傾化が非合理的であると説いたが(参照→http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20091202/1259725998)、その頃とは自民党を取り巻く状況がまるで違っているのである。
選挙で勝ってしまえば、極右から改憲関連の公約違反を追及されたとしても、「参議院を通すためやむなく妥協した」だの「公明党と妥協した」だのという言い訳が幾らでも用意出来る。